【書評】『アメリカ大統領の信仰と政治』 栗林輝夫

熱烈な宗教国家アメリカの内情を

  「あら、それを買うの」。台の上の共和党のワッペンに手を伸ばしたとき、隣にいた黒人女性が笑いながら話しかけてきた。「お金の無駄よ。どうせ、負けるに決まっているんだから」。大統領選挙日を数日後に控えたニューヨークの通りで、選挙グッズを売る屋台を見つけて立ち寄った。ところがオバマのTシャツやポスター、バッジの類は所狭しと並べられているのに、共和党関連の商品が少しも見当たらない。やっと台の片隅に、「信仰と信頼の回復」と文字を綴り、胸に手をやるマケイン候補の写真入りワッペンを見つけて手に取った。「いや、僕は負け犬の味方だから」と言って商品を差し出すと、くだんの女性も店主も大笑いで、誰も買わないから半値でいいよと気前のいいところを見せてくれた。

 昨年11 月のアメリカ大統領選には、1週間ほど前からニューヨーク入りし、選挙当日はマンハッタンのウエストサイドの投票所のメソジスト教会に出かけた。驚いたことには、気が短いニューヨーカーが、いつになく愉しげな顔つきで順番を待って数時間も行列していた。

 ちなみに筆者は4半世紀ほど前、通っていた神学校がリベラルなこともあり、民主党の応援バッジを胸につけて、ブロードウェイの選挙事務所を同級生と一緒に少し手伝ったことがあった。そのときの民主党候補は、後に駐日大使になったウォルター・モンデール。しかしテレビ討論会では弁舌巧みなレーガンにまるで歯が立たずに惨敗した。

 マンハッタン地区はブロンクスと並んでもともと民主党が強い地盤だが、オバマ人気は圧倒的で、今回の投票で有権者の85%を獲得した。オバマ勝利の瞬間は、タイムズ・スクエアのABCテレビ局のサテライト・スタジオ前で、大勢の人々と電光掲示板を見守る中で迎えた。アメリカは熱烈な宗教国家で、その大統領は国民にとって王であり預言者であり祭司でもある。そんな事情の一端をこの本で読者に伝えることができればと願っている。(くりばやし・てるお=関西学院大学法学部教授)

【本体2,000円+税】
【キリスト新聞社】9784873955377

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