【書評】『エラスムス神学著作集』 エラスムス 著 金子晴勇訳

 教文館が手がける「キリスト教古典叢書」からの新刊。ルネサンス最大の思想家エラスムスによる、重要な神学的著作の邦訳。
 エラスムスといえば、古代異教古典の知識を駆使した文筆活動や、新約聖書の原典研究を行った人文主義者として知られているが、そうした活動には自身のキリスト教信仰が深く関わっていた。彼自身、教会の改善のために提言する神学者でもあったのである。
 本書はその重要な神学的著作の邦訳であるが、「自由意志論」は収録されていないので注意が必要である。訳文は、エラスムスの難解なラテン語に比べ読みやすい。
 収録作品のうちいくつかを挙げると、「エンキリディオン」はキリスト者の霊的生活のための手引きであり、目を引く点としては、異教古典の受容姿勢、万事における唯一の目標としてのキリスト、不可視的事物へ前進すること――比喩的聖書解釈や内面的敬虔の実践――の重視、内面の伴わない外形的宗教儀式や迷信的信仰の批判などが挙げられる。
 「校訂新約聖書」に付された序文「新約聖書の序文」も収録されている。「パラクレーシス」では、万人による聖書繙読の願い、キリスト者が新約聖書の「キリストの哲学」を重んじ体得すべき旨を語り、「メトドゥス」では、そのための深い敬虔、三言語や諸学学習の必要性を述べ、スコラ学を批判し教父を重視する。「アポロギア」では、聖書の権威や、聖書写本の不一致、歪曲や誤訳に触れ、本文改良や改訳の意義を述べる。
 また、巻末の「総説」と各作品の「解説」も有益であり、作品と合わせて、わが国において等閑視されがちな、エラスムスの「キリスト教人文主義」精神を深く理解するための必読書となるであろう。

【本体6800円+税】
【教文館】978-4-7642-1811-6

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