【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『黄金伝説』 ヤコブス・デ・ウォラギネ

『黄金伝説』 全4巻(平凡社ライブラリー、2006年)

 本書は、西方教会のキリスト教聖人伝の集大成。キリスト教に関わる人で知らない人はいないだろう。旧新約聖書とほぼ同じ分量を持つ「黄金伝説」は、「聖書を読んだだけでは知ることのできない、聖書にのっていないキリスト教」だといえる。

 それは、千年の中世に、聖書を受容し咀嚼したラテン語文化圏の基礎でもある。たとえば、サンタクロースの元ネタとなる聖ニコラウスも本書に含まれている。「黄金伝説」を知っているか否かで、文字通り、キリスト教文化圏への理解の深度が変わる。解説において訳者は、このように語る。

 「キリスト教の聖人伝説とは、どういうものであろうか。キリスト教は、ほんらい神話や伝説にとぼしい、と言うよりもむしろ反神話的な宗教であったが、やがてユダヤ以外の世界、ことにヨーロッパ的世界に進出しはじめると、ここは百花繚乱たる神話や伝説の花園であった。

 ギリシア・ローマ神話、ゲルマン神話、さまざまな民間伝承、やがて民族大移動がもたらすそれらの多彩な混淆。これにくらべて、福音書は、イエスの幼時や生い立ちについてすら説話らしい説話をあたえてくれない。キリスト教がこの神話的花園のなかで地歩をきずくためには、ユダヤ世界の救済教義だけではどうにも手のほどこしようがなく、みずからを非キリスト教化し、神話化せざるをえなくなった(中略)

 こうした聖人伝説は、その後千年の歳月のあいだにアジア、アフリカおよびヨーロッパの三大陸にまたがるさまざまな異教伝承や土俗信仰をも摂取しながら多くの聖人伝作者(ハギオグラーフ)たちの手によって内質ゆたかなものに形成されていき、まさに中世の黄金時代にいたって、ジェノヴァ市の大司教であった福者ヤコブス・デ・ウォラギネ(1230ごろ~98年)が集成した『黄金伝説』においてみごとな結実を見いだした」

 すなわち、黄金伝説は、聖書と文化の間に立つ市井の人々のキリスト教理解といえる。欧州文化の厚みを知るための必読書だ。

【本体1,900円+税】
【平凡社】978-4582765748

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