【雑誌紹介】 心優しき青年が大量殺人をなぜ 『福音と世界』9月号

 オウム真理教事件からわれわれが学ばなくてはならないことがたくさんある、と連載『ことばの履歴書』で佐藤優。

 《アンソニー・トゥー博士(米国コロラド州立大学名誉教授)はヘビ毒の世界的権威で生物・化学兵器に関して詳しい。日本の警察に協力してオウム真理教によるサリン事件解明のきっかけを作った人物だ。トゥー氏は、坂本堤弁護士一家殺人事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件、東京都庁小包爆弾事件などに関与し、死刑が確定した中川智正氏と2012年から15回面会した。面会の目的は、オウム真理教による生物・化学兵器製造過程を調査することだ。面会を通じて2人の間には人間的信頼関係が確立される。その結果生まれたのが『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』(KADOKAWA)だ。本書の公刊は死刑執行後にしてほしいと中川氏は要請した。トゥー氏はそれを受け入れ、6日に中川氏が麻原彰死刑囚ら6人とともに絞首された後、本書が刊行された。

 京都府立医大を卒業した心優しき青年が何故に大量殺人に手を染めるようになったかが本書を読むとよくわかる。麻原死刑囚には、他者の魂をつかむ類い稀な能力があった。オウム真理教には難関大学出身の若者が多かったが、教科書の内容を記憶して再現するという、偏差値で測れる能力では、人生の意味を問う人に答えを与えることはできない。キリスト教徒として、われわれが本来やるべきことをしなかった罪が、オウム真理数を生みだしてしまったのである。このことについて、われわれは悔い改めなくてはならない。

 中川氏は、去年2月、マレーシアの首都クアラルンプールで起きたVXによる金正男暗殺事件の際にも、真相究明に努力し、獄中から論文を発表した。その動機について、今月2日にトゥー氏に宛てたメッセージでこう記している。<私が論文を書いたり、研究者に協力しているのは、私がやったようなことを他の人にやって欲しくないからです。被害者を出したくないのもそうですが、加害者も出て欲しくないと思っています。裁判ではこのようなことを十分に話せませんでした。マレーシアの事件を分析するには、医学知繊(ママ)はともかく、私の化学知職(ママ)は不足していたので、ずい分勉強しました。死にたくないというのが理由ならば、あんなに勉強しません。北朝鮮の政府内には、オウム真理教の起こした事件を研究していた部署があるそうです。VX塩酸塩のことは教団のやったことを研究しないと思いつかないと思います。いきがかり上、どうしても書きたいと思いました。>(226頁)

 カルトの被害者は暫くすると加害者になってしまうという構造がある。こういうことを教育を通じて若い世代の人々によく理解させることが、神学者やキリスト教主義学校の教師にとって重要な課題だと思う》

【本体588円+税】
【新教出版社】

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