【書評】 『花ばぁば』 クォン・ユンドク 絵・文/桑畑優香 訳

 戦争の歴史を後世に伝えるのは殊のほか難しい。中でも国内外でさまざまな激論が交わされてきたテーマを、いかに普遍的な問題として提示し、継承できるのか。その困難さは、本書が韓国語版の刊行から実に8年にわたって「お蔵入り」の危機に瀕していたことからもうかがえる。

 もともと4人の絵本作家(田島征三、田畑精一、浜田桂子、和歌山静子)による呼びかけで企画された「日・中・韓 平和絵本」シリーズの第1作として作られたものの、日本側出版社の都合でとん挫。しかし、「慰安婦などなかった」と封殺しようとする流れに抗い、「絵本を完成させたい」と願う多くの支援者から資金が寄せられ、ついに日の目を見ることとなった。

 絵本は、元慰安婦のシム・ダリョンさんによる証言をもとに作られ、戦時性暴力による過酷な体験を綴ってはいるものの、黄土色の軍服と美しい花のコントラストで抽象的に描き出している。そこには、「問題の責任をひとりひとりの具体的な個人ではなく、彼らを指揮し扇動した国家と支配勢力に問うべき」「多くの弱い者が民族と宗教、理念を超えて手を取り合い、その勢力と戦争に反対して、平和な世界を作っていかなければ」という作者の思いが込められている。

 旧日本軍の罪を糾弾するだけで問題は解決しない。絵本の最後は、こう締めくくられている。「花ばぁばが経験した痛みはベトナムでもボスニアでも繰り返されました。そして今、コンゴやイラクでも続いているのです」

 企画から創作の過程、日本での出版が絶望的となるに至るまでを克明に記録したドキュメンタリー映画『わたしの描きたいこと』(クォン・ヒョ監督、アートサービス制作)も秀逸。1冊の絵本にかけた作家の思い、二度と過ちを繰り返してはならないという願い、そしてその背後にある「慰安婦」たちの声なき声が画面からあふれ出る。

【本体1800円+税】
【ころから】978-4-907239-29-9

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