【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『旧約聖書の謎――隠されたメッセージ』 長谷川修一

『旧約聖書の謎』(中公新書、2014年)

 全世界の神話に洪水伝説が残っていることは有名な話だ。やはり、聖書に記された「ノアの方舟と洪水伝説」は歴史的事実なのだろうか? または預言者ヨナを飲み込んだ、あの大きな魚はクジラ? それとも別の何か?  本書は、誰もが抱く素朴な疑問に、旧約学者が研究成果を踏まえながら丁寧に答えていく。旧約聖書から、七つの出来事を扱いながら、そこに込められた事実と信仰を読み解いていく。

 おもに聖書学、歴史学、考古学の観点から、出エジプト記、エリコの征服、ダビデとゴリアトの一騎打ち、エジプト王シシャクのパレスチナ遠征、列王記の戦場アフェク、ヨナ書と大魚を考える。「神の存在を確信し、その前に謙虚になった人間が、自分たちの考えや信仰を記した書物」として聖書を読む著者が、旅先案内人として読者を誘う。

 旧約聖書を木、古代オリエント世界を森、人類史を大森林にたとえる著者の幅広い視野とまなざしは、木々への敬意に満ちている。同時に「旧約聖書」の政治性を認めて、警鐘を鳴らす。また文化を越境して届く聖書のことばが、どうすれば日本人に伝わるのか、という視点も忘れない。「日本文化の中でヨナ書のメッセージを把握してもらうのに最もふさわしい方法は、落語として演じてもらうこと」という提案には、思わず頷いてしまう。

 聖書を読んでみたけれど、よく分からない。聖書をめぐる科学的見解を知りたい。そんな一般読者がはじめに手に取るべき道案内は、専門的議論を押さえつつ、平易な文体と図説を備えた本書である。姉妹編として『聖書考古学――遺跡が語る史実』(2013年、中公新書)を参考するのも良いだろう。また著者が教鞭をとる立教大学の同僚・小澤実との共著『歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏』(勁草書房、2018年)も併せて参照されたい。

【本体820円+税】
【中央公論新社】978-4121022615

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