【書評】 『ヒエロニュムスの聖書翻訳』 加藤哲平

 わたしたちは何気なく翻訳を読み、「内容」に夢中になる。だが、その「内容」とは翻訳者による血のにじむような努力の成果である。本書は、聖書を原典からラテン語訳したヒエロニュムスの生涯とその翻訳神学をめぐる研究書である。

 ヒエロニュムスが活動した時代、教会の正典として用いられた聖書の旧約部分はヘブライ語原典ではなく、ギリシャ語の七十人訳であった。七十人訳には誤訳や写本間の混乱があったにもかかわらず、原典よりも真理があるとされていたのである。ヘブライ語原典から七十人訳を介さず、直接ラテン語に翻訳したヒエロニュムスの訳業は、当時のラテン語圏の諸教会からの反発を招き、彼自身激しい批判に曝された。

 聖書は翻訳されることで諸教会へと広まった。訳業が始まったばかりの時代の躍動感が、若き研究者の筆致から生き生きと伝わってくる。

【本体5,200円】
【教文館】978-4764274242

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