【書評】 『キリスト者への問い――あなたは天皇をだれと言うか』 松谷好明

 「昭和」から「平成」へと元号が変えられた1989年の「代替わり」。折からの自粛ムードに加え、全国紙に「崩御」の見出しが躍り、メディアが皇室報道に独占された異様な光景は今も鮮明に思い起こされる。――あれから30年。新たな「代替わり」を迎えるにあたり、キリスト者として何にどう向き合うべきか。「信仰告白的」に生きるとは? その指針となる時宜にかなった良書の誕生を歓迎する。

 ウェストミンスター神学者会議・信仰規準、ピューリタニズムの研究者として知られる著者だが、2008年以降、改革派教会などから折に触れて受けた依頼を「強いられた恩寵」として受け止め、「天皇とキリスト教」の問題に改めて向き合ったという。それは、日本の教会が絶えず投げかけられてきた「あなたは天皇をだれと言うか」との問いに対する著者なりの答えでもある。

 「キリスト者にとって天皇とは」「天皇はキリスト教徒となりうるか」「近代日本におけるカトリック教会と天皇制」「四代の天皇・皇后とキリスト教」の4講演を収録。特にカトリック教会と天皇制(国家神道)の歴史的関係という視点は、これまであまり語られてこなかった重要な側面である。

 戦前・戦後の歴史を顧みるにつけ、名だたる神学者、神学校、教会、牧師たちが真摯にこの問題に向き合ってこなかったことに改めて愕然とする。著者の批判の矛先は、「日本を愛するキリスト者の会」に象徴されるような「日本的キリスト教」のみならず、そうした教会の無責任体制にも向けられ、存命の牧師たちにも舌鋒鋭く迫る。そしてこれらの課題は、本紙の創刊に携わった賀川豊彦や武藤富男も決して無縁ではない。

 キリスト教界の天皇制に対する態度について、「日本宣教の妨げになる」「だから1%の壁が越えられない」「過去は水に流して未来志向」などとまことしやかに語られる言説にどう応答すべきか。詳細なエビデンス(史料的な根拠)をもとに、その有力な手掛かりも得られるに違いない。

【本体1,700円】
【一麦出版社】978-4863251175

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