【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『断片的なものの社会学』 岸 政彦

『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年)

 教会関係者なら、多かれ少なかれ「人の話を聞く」ことがある。本書は、隣人の話を聞くことの本質を鮮やかに浮き彫りにする。

 高橋源一郎、千葉雅也など著名人の推薦コメントとともに、帯には「人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ、社会学者が実際に出会った解釈できない出来事をめぐるエッセイ」とある。聖書の解釈ばかり聞いている教会の読者にとって、本書は、開け放たれた窓のように新鮮な空気を運ぶだろう。

 「沖縄で、ホームレスの支援をしている教会に行って、お話を聞いたことがある……暖かい、南国の、きれいな花が咲いている楽園のような場所で、最期をむかえるために沖縄にやってくる人びとがいる。教会の牧師さんは、何名か、公園で実際に首を吊ろうとしていた男性を助けたことがあるらしい。沖縄の人びとにとっては、それは自分勝手な、迷惑な話かもしれないが」

 「物語の欠片」という断想的な章に記された、キリスト者にとって印象的な一文だ。このエピソードの直前には、老母と二人暮らしの熱烈な巨乳マニアの男性が癌になった事の顛末が、静かに語られている。本書には、教会では見過ごされ、語られることのない市井の声がありのままに綴られて、あたかも生態展示のように読者に迫る。

 著者・岸政彦は立命館大学(大学院先端総合学術研究科教授)で教鞭をとる社会学者。沖縄、生活史の専門家である。しかし同時に、小説「ビニール傘」(『新潮』2016年)では芥川龍之介賞と三島由紀夫賞の候補に名が挙がる文人でもある。なお本書「断片的なものの社会学」は、2016年の紀伊国屋じんぶん大賞を受賞。いま最も注目される社会学者である。

 なぜかはわからないが記憶に残る印象と風景。それらをたどり、隣人の話を聞くということの、どうしようもなさと美しさが、紫煙のように人間と社会の隙間を立ち上る。

 ありのままの誰かの声を聞いてみたいならば、まず本書を開いてみよう。

【本体1,560円+税】
【朝日出版社】978-4255008516

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