【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『大義』 杉本五郎

『大義』(平凡社、1943年)

 第二次世界大戦中、29版を重ね、130万部を超えたミリオンセラーといえば、何を思い浮かべるだろうか。本書『大義』は、当時、軍神と謳われた国粋主義者・杉本五郎(1900~1937)の遺書である。日本人の死生観をもっともよく表したと評されたがゆえ売れに売れた(原著は1939年刊行)。

 杉本は、日中戦争に従軍して戦死。胸に被弾し、背後で手榴弾が爆発しても銃を杖に立って、突撃命令を下し、皇居へと挙手敬礼したまま絶命したという。現代の武蔵坊弁慶さながらの最期、またその徹底的な皇国思想によって、時代の英雄として戦時中広く知られた人物である。『大義』には、キリストへの言及もある。例えば、「第一章 天皇」には以下のようにある。

 「天皇は 天照大御神と同一身にましまし、宇宙最高の唯一神、宇宙統治の最高神。国憲・国法・宗教・道徳・学問・芸術乃至凡百の諸道悉皆 天皇に帰一せしむるための方便門なり。即ち 天皇は絶対にましまし、自己は無なりの自覚に到らしむるもの、諸道諸学の最大使命なり。無なるが故に、宇宙悉く 天皇の顕現にして、大にしては上三十三天、下奈落の極底を貫き、横に尽十万に亘る姿となり、小にしては、森羅万象 天皇の御姿ならざるはなく、垣根に喞(すだ)く虫の音も、そよと吹く春の小風も皆 天皇の顕現ならざるなし。

 釈迦を信じ、『キリスト』を仰ぎ、孔子を尊ぶの迂愚を止めよ。宇宙一神、最高の真理具現者 天皇を仰信せよ。万古 天皇を仰げ。

 日本臣民は自己の救済を目的とせずして、皇威伸張を目的とせざるべからず。勿論自己は 皇威に於て救はる。然れども救はれんがために 皇威伸張を念願するに非ず」

 また「第四章 神國の大理想」にはこのようにある。

 「……天皇絶対無限の大慈悲は『一切衆生成仏せずんば我正覚をとらじ』の法蔵菩薩の四十八の大誓願となつて現われ、将又十字架上における『キリスト』の贖罪の悲願となり、人類救済こそは、歴代 天皇の念願にして、肇国の大理想なり。

 釈尊もキリストも孔子もソクラテスも 天皇の赤子なり。八紘一宇顕現の機関的存在なり。世界を救うて 天皇國となすこと実に 皇民の大使命なり。この聖戦途上鉄火に焼かるゝ何の恐るゝ所ぞ。元来 皇國に領土なし。現在の国土は 皇威の及べる地域のみ。(或は曰く『四囲皆敵なり、内騒ぐ時に非ず』と。 天皇精神発動に依る戦争は領土拡張に非ず、人類救済なり。皇威を冒涜するもの内外共に敵賊なり、共に滅すべし。)」

 ほかには第十章において「皇運扶翼の大道に、永遠に生くることを放擲する」精神の発露として、「幸福なる哉、義のために責められたる者、天国はその人のものなり」と、マタイ福音書が引用される。時代を色濃く反映した宗教理解である。言うまでもなく、否定的または論外の「キリスト教」理解かもしれない。しかしながら、日本語キリスト教の受容史、または解釈史の一端であることは否定できない事実だ。

 日本宣教における土着化と宗教混淆の境目はどこにあるのか。神学的に天皇をどのように扱うべきなのか。政治神学、「教会と国家」という具体的問題に取り組み、日本語キリスト教が問わざるを得ない歴史的課題を考えるための基礎的文献といえる。「二つのJ」を問う者は避けて通れない、思想史上、必読の1冊。「杉本五郎 大義」で検索すれば複数個所で本文テキストを確認できる。

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【平凡社】

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