【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『フェミニスト視点による聖書読解入門』 フィリス・トリブル

『フェミニスト視点による聖書読解入門』(新教出版社、2002)

 著者フィリス・トリブル(Phyllis Trible)は、旧約聖書学者でありフェミニスト神学者の最初期世代である。本書は、4名の女性(絹川久子、森真弓、湯浅裕子、河野信子*敬称略)が、2001年のトリブル氏来日講演から厳選して訳したもの。あとがきの紹介によれば「彼女の聖書解釈は、文学批評に基づきながら、説得の動機を読み解いていく修辞批評を用いた、フェミニスト視点によるもの……テキストの中に隠されて、抑圧されている存在の声に耳を傾け、それらの声を少ないテキスト資料の中から響かせる」ものである。

 言うまでもなく、現代神学のフロントにおける「解放の神学」の一翼としてのフェミニスト神学の声、その聖書解釈がみてとれる。トリブル氏の日本講演の同行者サラ・リャン氏によれば、トリブル氏は「女性を無価値なものであるとするような伝統的な男性的解釈とは異なる解釈の仕方があること、を示し」、各地で「聖書を大切にしながらも、その父権制的内容と戦っている女性たちの姿に感動」したという。

 それは、本書冒頭「ミリアムを取り返す」にも如実に現われる。モーセと共に古代イスラエルを導いたミリアムの解釈史、そこから新約のマリアへとつながる水脈を汲み上げて、「仲介者、音楽家、モデル、預言者、詩人、祭司、救出者、ダンサー、弟子」としての女性ミリアムを描き、さらに「通常イスラエルで女性たちが得る地位・アイデンティティである妻と母という階級的関係がここには欠けていること」を指摘する。

 次章「ジェンダーと聖書」では、生物学的・身体的アイデンティティとしての性、社会的・文化的アイデンティティとしてのジェンダーという整理を提示し、フェミニスト視点で聖書を読むための前提を据え、「エリヤとイゼベル」「山上の変貌」「聖書とわたし」と議論を深めていく。

 「#MeToo」運動に始まり、あらゆる社会的差別に敏感な昨今、全教会で改めて再確認すべき内容が含まれている。フェミニスト神学の入門書として最適の1冊。

【本体1,000円+税】
【新教出版社】978-4400142669

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