【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『東方キリスト教諸教会――研究案内と基礎データ』 三代川寛子 編著

『東方キリスト教諸教会――研究案内と基礎データ』(明石書店、2017年)

 景教はどこに消えたのか。高野山と京都大学博物館に「大秦景教流行中国碑」のレプリカがある。歴史の波間に消えた古代キリスト教の一派が日本にも到来していた、というロマン溢れる都市伝説では、枕詞のように必ず出てくる景教碑である。景教碑は、中国に到達したキリスト教ネストリオス派を記念したものとされる。一般的な説明であると同時に、俗説を含んでいる。現在の常識として、政争に負けて異端とされたネストリオス派と、中国に到達した景教を混同することはできない。すなわち本書は、四つのキリスト教の一翼、カトリック、プロテスタント、正教会のいずれでもない「東方諸教会」について、最新の研究状況と基礎データを提示する。例えば、第10章では、東方諸教会の一枝「景教」が扱われ、その行方が明らかとなっている。

 「現在、『アッシリア東方教会』と称している集団はペルシア領内におけるキリスト教にその起源を求めることができる。『東方の教会』という名称も、ローマ帝国とペルシア帝国の国境を境に、ローマ帝国の版図すべてを含む『西方』に対して、ペルシア以東の『東方』の教会という意味で理解される。この集団は歴史的には『ネストリオス派』の名でしばしば言及されてきたが、これは彼らを異端者として位置付ける蔑称であるため、現在では自称としては用いられないし、他称としても使用は避けるべきである。一方、『アッシリア』(Assyrian)[英]という名称は一九世紀以降に用いられるようになった」

 一般に俗説ばかりが先行する「東方キリスト教諸教会」とその地域の歴史が、約30名の学者たちの確かな筆致によって、常識となる。今後、本書に触れずして「東方キリスト教諸教会」については語れない。現在、西方キリスト教の伝播範囲では、イスラム教を敵とみなす向きもある。しかし、千年を超えて、イスラム教だけでなく他宗教・異文化を兄弟とし、欠くべからざる隣人として生きてきた教会があった。東方諸教会への扉を開くための最高のガイドブックにして、グローバルな常識や姿勢を求める者ならば、必読の書。

【本体8,200円+税】
【明石書店】978-4750345079

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