【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『内村鑑三・我が生涯と文学』 正宗白鳥

「我が生涯と文学」『内村鑑三・我が生涯と文学』(1994年、講談社)収録

 「私は東京の学校に入って英語英文学をはじめ、さまざまな興味ある学問を修めるのを楽しみにしていただけで、卒業後、相場師になるか、文学者になるか、或はキリスト教の伝道師にでもなるか、そんなことはまだ考えていなかったし、考える必要もなかった」

 小説家・劇作家である正宗白鳥(1879‐1962)は、岡山に生まれて、少年期にキリスト教への憧れを抱いた。長じて東京専門学校(現在の早稲田大学)に入り、在学中に、内村鑑三と植村正久の影響下で受洗するも、教会からは次第に離れた。明治から昭和にかけて活躍した著名な文学者である。日露戦争以後の青年に迫った作品『何処へ』を知らぬ者は少ないだろう。

 上掲の引用文からは、のちに文学者として大成する正宗白鳥の視野に「キリスト教」が入っていたことが伺える。キリスト教への憧れと拭えない距離感、当時の文学青年らに共通する傾向である。彼らの視点と感性を通じて、大衆は邪教「耶蘇」を西洋文化「キリスト教」として社会的に受容していった。

 あとがきによれば、本書「我が生涯と文学」は太平洋戦争が終結した1945年に筆が置かれた。敗戦後、初めての冬を迎える中、軽井沢の小さな部屋のコタツで温もる正宗白鳥の胸に去来する彼の「生涯と文学」は、そのまま明治期末期から太平洋戦争へと駆け抜けた近代日本の足跡に重なる。上京したばかりの青年期を振り返って、こう記している。

 「当時、私は内村先生崇拝で、その著作のすべてを熟読し、その講演のすべてを、路の遠きを厭わずして聴き歩いていたのであって、先生の文学観には、その宗教観同様、無理にも服従していて、「文学とはかかるものか」と、一先ず合点していたのであった。(中略)今回顧すると、先生は旧約の預言者らしい所があり、先生の好きなエレミヤに似ているところがないでもないが、実際はそうでなく、先生はやはり日本の伝統を継いだ日本人であった。西郷隆盛や、日蓮上人や、上杉鷹山や、報徳記の二宮尊徳や、太平記の楠正成に敬服し感激した忠誠な日本人の一人であった」

 本書は1950年『内村鑑三』にも通底するだろう。現在、『内村鑑三雑感』『文壇的自叙伝』と合わせて、講談社文芸文庫に収録。「求道と信仰」の狭間で、最晩年に「アーメン」と言ったと伝えられる作家・正宗白鳥の心に迫る良書。

【本体951円+税】
【講談社】978-4061962613

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