【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 評論集『純粋の探究』 佐古純一郎

評論集『純粋の探求』(甲陽書房、1951年)

 佐古純一郎(1919-2014)は徳島出身の作家・批評家である。信仰に立脚した文芸評論を展開したことで知られている。亀井勝一郎に師事し、創元社で小林秀雄の知遇を得た。小林秀雄に殴られて階段から落ちたというエピソードはあまりにも有名だ。

 敗戦を対馬で迎えて、戦後は、日本基督教団中渋谷教会の会員となり、神学校を経て、1951年に本書、論評集『純粋の探求』を出版した。以後、キリスト教信仰の観点から、文芸批評を行い、椎名麟三、遠藤周作、三浦綾子らの知己を得た。後に二松学舎大学学長と牧師を務め、1998年には日本キリスト教文化協会より「キリスト教功労者」として表彰された。戦後日本の文芸批評とキリスト教をつないだ希有の人物だった。

 「これは文字どおり私の処女評論集である。昭和二十六年のクリスマスに自費出版として刊行したものである(中略)Ⅰに収めている三つの評論は洗礼を受ける以前に書いたものであり、とくにパスカルの回心を論じた『傷める蘆』は、受洗直前のものである。受洗直前のつきつめた心の姿がよくあらわれていて、私にとっても大変懐かしい」。著者自身の本書についての言葉である。本書には「傷める蘆」以外にも興味深いタイトルが並ぶ。例えば「芥川龍之介のキリスト観」「人間失格論」がある。

 「『西方の人』『続西方の人』を中心として芥川龍之介のキリスト観について考えつつ、それが日本の近代精神史に於いて如何なる位置と意義を持つものであるかを反省してみようと思う」と語る。また「近代的知識人の本体とは何であるか。私はそれは、罪の意識の欠如ということに於いて規定し得ると思う」「太宰は人間に於けるエゴイズムの醜悪という問題を芥川から継承しつつ、聖書の前に立って芥川の魂が持たなかった罪の意識にまでそれを深めたのであった。このことは私達の近代精神史に於ける重大な飛躍であったと言わなければならない」という視点は鋭い。

 日本語キリスト教における「信仰と文学」に取り組む者には必読の1冊。

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【甲陽書房】

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