【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『比較宗教学の誕生 宗教・神話・仏教』 F.M.ミュラー

 「宗教学」が比較宗教学から始まったことは、多くの人の常識とするところだ。本書は、近代宗教学の父・フリードリヒ・マックス・ミュラーの主要著作の翻訳である。ミュラーは、1823年のドイツに生まれ、のちに英国オックスフォードで活躍した人物。ベルリン大学、パリ大学などで教鞭をとった。『リグ・ヴェーダ』の校訂、『東方聖典叢書』の編纂者として広く知られる学者でもある。研究史に輝くその業績は未だ色褪せることがない。本書は彼の代表的論考である『宗教学序説』と『比較神話学』など、全8本を収録。

 本書巻末に付された解説も必読。例えば著名な神話学者・松村一男は、学問が政治的趨勢からは逃れられないこと、アカデミズムの時代性についての以下のように指摘している。

 「十九世紀のミュラーら自然神話学派を生み出したパラダイムとは、①ダーウィンの生物学を源流とする進化論および起源論、②比較言語学に由来する語源の過度の重視の二つであった。それが、古代ギリシア文明の後継者と任じていたヴィクトリア朝英国人のギリシア擁護、ギリシア神話の品位を維持したいと願う雰囲気に合致して、人気を獲得したのである。そしてそこには自分の国の昔話や童謡の品位の問題も係わっていたらしい」

 学術的真理はつねに更新される。新たな研究成果によって、つねに精度と確度を上げていく。キリスト教側に翻しても、また同様である。聖書学、キリスト教学の研究成果も更新され続けている。その意味で、本書の価値は、われわれに宗教を研究することの意義とその研究蓄積の変遷について教えてくれる。

 「宗教・神話・仏教」となっているが、当時の著作年代と環境を考えれば、当然ながら「キリスト教」が視野に入っている。初学者から専門家まで、大学生、神学生、聖職者問わず、宗教との専門的接点を持つ者は避けては通れない古典的名著。

【本体6,800円+税】
【国書刊行会】978-4-336-05689-4

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