【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『悪魔の星』 ジェイムズ・ブリッシュ 著/井上一夫 訳

『悪魔の星』(東京創元社、1967年)

 本作『悪魔の星(邦訳)』の原題は「良心の問題」である。訳者の井上一夫によれば、作家ジェイムズ・ブリッシュ(1921-1975)は、生物学者を志すも文才あることに気付き、第二次世界大戦より生還してからは、ニューヨークの製薬会社で広報の仕事をしながら、夜にはSFを書いた。1950年以降に「宇宙都市シリーズ」を上梓、1959年に本作『悪魔の星(邦題)原題:良心の問題』でヒューゴー賞を受賞。名実ともに一流作家となった。

 では、なぜ半世紀も前に発表された本作『悪魔の星』を本紙で紹介するのか。なぜなら、本作の主人公が、宇宙人と出会うイエズス会士だからだ。主人公ルイス・サンチェス神父は、爬虫類から進化したリチア人が生きる惑星リチアの調査に立ち合い、ある疑問に苛まれる。「福音を聞くことなく、人類以上に道徳的に平和に暮らすリチア人は、本当に神の被造物なのか」、否、むしろ悪魔が人類を騙すために作り出した罠ではないのか。

 主人公サンチェス神父の問いは、そのまま16世紀以降に中国などアジアに到達した宣教師たちの驚きと疑問に重なる。本当に福音を聞くことなく高度に道徳的社会を維持することは可能なのか否か。教会は、教会の外にある価値について、どのように考えればいいのか。

 サンチェス神父は、神を持たない彼らに「良心」は存在するのか、と悩む。もし良心があり罪がないのならば、惑星リチアはエデンであり、リチア人はエデンの子なのではないか。さらに、リチア人より地球へと託されたリチアの子・エグトヴェルチは、地球人類と社会の敵となるのか。はたまた救世主となるのか。

 帝国主義と植民地支配、その罪に密着して来た「教会史」の是非、すなわち「良心の問題」がハードSFの巨匠によって、宇宙を舞台に再演される。惑星リチアに対するローマ教皇庁の姿勢、驚愕の結末は深い神学的余韻を残すだろう。SFと信仰が交錯する古典的1冊。

【本体980円+税】
【東京創元社】978-4488622015

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