【書評】 『梯子を降りる――悲嘆からコミュニティへ』 ジャン・ヴァニエ 著/宮永久人 訳

 1964年、2人の知的障害をもつ男性との共同生活から始まったラルシュ共同体の設立者ジャン・ヴァニエが、ハーバード神学校で行った講演がまとめられた本書。ラルシュ共同体は現在、世界中に154の共同体(HPより)を展開しており、ヴァニエのメッセージもまた多くの人々に安らぎと気づきを与え続けている。

 ヴァニエの福音は、徹底的に「小さく弱い人びと」との交わりの中で語られる。一見、この世界の価値観からはみ出てしまっている彼ら。役に立たない存在だと思われ、受け入れられず、孤独と内なる痛みに悩み、傷つき、怒りを抱えている彼ら。ヴァニエは決して彼らを美化はしない。しかし、彼らの弱さや傷、怒りのただ中にこそキリストはおられることを繰り返し語る。

 ヴァニエの信じるキリストは、一貫して低みに立つ。「イエスがよきおとずれをもたらすために来たのは小さな人びとのところにであって、小さな人びとに奉仕する人びとのところにではない」とすら述べる。神は「癒しの能力ではなく、むしろ癒される必要のなかに現存」しているのだと。このことを語ることに微塵の迷いもない。

 また、ヴァニエの視点は、「障害」のあるなしにかかわらず、誰もが自分自身の中に癒される必要があることに思い至らせる。「小さい人びと」は、「自分の打ちひしがれた状態において、神秘的な仕方でわたしたちに、わたしたちが打ちひしがれていること、人を愛することの難しさ、心のなかのバリア、かたくなさをあらわにする」。

 しかし、自分自身のかたくなさに気が付くだけで終わるのではない。「小さい人びと」と出会う人は、自分自身の内側にある「井戸の扉」をたたかれ、「いのちと優しさの泉」が沸き出てくると言う。能力主義、競争社会に、思いもよらない新しい価値観をもたらす慰めに満ちたメッセージがここにはある。

【本体1,000円+税】
【女子パウロ会】9784789608039

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