【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『ユートピアと性 オナイダ・コミュニティの複合婚実験』 倉塚平

 2017年、食器キッチン用品を販売する米国企業が「オナイダ・グループ」と名称変更を発表した。同社の起源は、18世紀アメリカに遡る。それは「リバイバル運動」が盛んなりし頃のキリスト教共同体「オナイダ・コミュニティ」にある。

 本書は「オナイダ・コミュニティ」に関する研究書。著者・倉塚平(1928~2011年)は、『異端と殉教』『千年王国の惨劇 ミュンスター再洗礼派王国目撃録 ハインリヒ・グレシュベック』など著訳書多数ある政治/宗教思想を専門とする学者だ。怜悧に透徹した目線で、アメリカに現れた終末論的な社会/宗教運動の全貌を本書において明らかにする。

 「オナイダ・コミュニティ」のすごさは、何といっても「複合婚」にある。裕福な家庭に育つも「リバイバル:信仰覚醒」を経験することで、牧師を志すようになった教祖ジョン・ハンフリー・ノイズは、ジョン・ウェスレー『キリスト者の完全』に傾倒し、ウェスレーを越えて、信仰の「完全さ」を確信し、ヨハネ文書の精読から、「過去再臨説:フル・プレタリスト」を奉じるようになる。加えて、失恋から「一夫一妻=結婚制度」そのものに疑問を持つようになる。

 預言者として覚醒したノイズは、アメリカと世界を「千年王国」完成へと導くべく、宗教的共産主義を実行し「複合婚」を実現していく。「複合婚」とは、共同体の構成員男女が互いに性的関係を持つという意味である。にわかに信じがたい話である。しかし、キリスト教における「性」の発現としてみれば、独身制の対局にあるのが「複合婚」だとも見れる。事実、ノイズは聖書解釈から「複合婚」を実践するに至っている。

 「オナイダ・コミュニティ」という「教会」の実践は、「信仰」と「性」の関係問題のみならず、当時の米国社会における女性の地位、教育、労働も含め、あらゆる意味で考えさせられる。「性」に揺れる現代だからこそ、必読の研究書。なお電子版で再販されている。

【本体1,000円+税】
【中央公論新社】978-4122060814

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