【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『元主忽必烈が欧洲に派遣したる景教僧の旅行誌』 バッヂ

 本書は、日本の「景教」研究の先駆者・佐伯好郎による訳書。春秋社より、1942年に再販された。「景教」研究というよりは、当時の時代精神を表すものとして、本書の価値は色褪せることがないだろう。すなわち、当時の「景教」研究は軍事研究の一環であった。軍政下における人文学は、そのまま専守防衛・先制攻撃のための「地域・言語・思想・文化」研究となる。帝国の版図拡大への願いが色濃く表れた佐伯「序文」には、以下のようにある。

 「本書の初版が刊行後数年にして絶版」「軍国多事の重大時局下にあって本書の再販が充計せらるる如きは、大日本帝国臣民として生を 聖代に享けたるものの光栄にして著者の面目これに過ぐるものはない」「皇国三千年の歴史」「元寇撃滅の決戦が支那朝鮮は勿論、全欧州諸国等に及ぼしたる影響と世界歴史的の意義とを一層明確に把握し、所謂西欧基督教対支那思想問題に関する認識を是正し 皇国臣民としての重大使命に対する各自の本分を一層深くかつ明らかに自覚し、戦線銃後共に一団となり一億一心、全身全力を挙げて聖戦完遂のために国民的責務を遂行するの一助となることを得」「茲に重ねて謹み慎みて恭しく広大無辺なる 皇恩に対する感謝と感激の徴衷を表し奉りて序文となす」

 近年の「景教」研究の動向については、武藤慎一『宗教を再考する 中東を要に、東西へ』(勁草書房、2015年)、三代川寛子 編『東方キリスト教諸教会――研究案内と基礎データ』(明石書店、2017年)が詳しい。

 「果ては博士か大臣か?」と言われたのも今は昔。足の裏の米粒「博士号」を取得しても廃人扱い。現在、冷や飯さえ食えない数多の文系研究者は、数十年前の軍政下「大日本帝国」ならば、温もりのある食卓にありつけたのかもしれない。「読めるものはすべて読んで解釈する」ことが人文学であるならば、本書こそ、まさしく、金になる人文学の歴史的意味である。

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【春秋社】

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