【雑誌紹介】 キリスト教の中だけの聖書研究? 『福音と世界』1月号

 特集「神秘主義の力」は、「神秘主義の反統治の力を現代に蘇らせたい」と編集者が願う企画。「神秘主義の系譜と可能性」(鶴岡賀雄=東京大学名誉教授)、「神秘主義が照らす現代世界」(村澤真保呂=龍谷大学社会学部教授)、「フェティシズムの善用あるいは『復活の復活』のために――政治神学的覚書」(田崎英明=立教大学現代心理学部教員)、「グスタフ・ランダウアーはわたしだ――永遠は永遠じゃない、いまこそ」(栗原康=東北芸術工科大学非常勤講師)、「闇を引き受けること――シモーヌ・ヴェイユの神秘思想」(佐藤紀子=國學院大學教育開発推進機構教員)、「ベギンホフと『神秘主義』の女性たち――ヨーロッパの歴史の古層から」(上條敏子=藤女子大学キリスト教文化研究所客員所員)と並ぶ著者陣が編集者の願いにどのように応えているのか。編集者の1人、工藤万里江は「最近、問い続けた先にある言葉にできない『何か』、永遠に答えが出ない『神秘』こそ大事なのではと思うようになってきました」と言う。

 「追悼 ウルリッヒ・ルツ教授の死を悼む」(佐藤研=立教大学名誉教授)は、2019年10月13日、スイスの新約学者ウルリッヒ・ルツ教授がベルン近郊の町ラウペンで多臓器不全で死去したことを報じ、「現今の新約学界および神学界にとって、大変意義深い人物が失われた」と追悼している。

 「しかし、ルツ教授を語る場合、その教育者としての情熱、そしてキリスト教を現代において意味のあるものとして再生維持しようと尽力した活動について何ほどか語らなければならない。まず教授は、長年にわたって東方教会と対話を試み、東方教会の研究機関の新約研究を活性化しようと努めてきた。……東方教会やカトリックとだけではなく、さらにはユダヤ教との対話や共同研究をも意識的に追及した。おそらくこうしたあり方の背後には、今の西ヨーロッパ(および北米)のキリスト教の中だけで聖書研究していても、世界全体のためにもキリスト教のためにもならない、という危機意識があったと思われる。……もちろん教授は、自ら本格的に禅に身を投ずることをしたわけではないが、西洋のキリスト教以外にも決定的に重要な思考と実存の世界があることは深く認知していた」と。

 新連載「くまさんのシネマめぐり」(好井裕明=日本大学文理学部教授)は、差別やそれを乗り越える人間の営みなどを映画がどのように描いてきたかを見る。(郡山千里=世界キリスト教情報主宰)

【本体588円+税】
【新教出版社】

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