【書評】 『日本の中国占領統治と宗教政策 日中キリスト者の協力と抵抗』 松谷曄介

 日中戦争において戦場にあったキリスト教諸派の教会は、アメリカやイギリスの宣教師たちによるものであった。それらが戦禍によって破壊されることは英米との外交問題に発展し得たし、宣教師たちの対日感情の悪化は中国人の抗日運動にも大きな影響を与えることになる。中国に「日本の」教会、すなわち日本人の宣教師による宣撫工作を行うことは、政府にとっても軍にとっても重要な課題であった。

 著者は日中に現存する幅広い第一次資料および第二次資料を参照しつつ、日中両国の、それも華北、華中というように地域ごとに微妙に異なるキリスト教の動きを浮き彫りにする。これまでの研究においてはどうしても日本=悪という前提が日中両国にあり、中国側から日本に協力したキリスト教徒も裏切り者としてしか評価されてこなかった。著者はそうした価値判断をいちど保留した上で膨大な資料に当たり、政治、政策、個人それぞれの視点において、巨視にも微視にも偏らない丁寧な研究をしている。

 キリスト教が社会に関わるとはどういうことか。そもそもキリスト教と社会とを分離して考えることは可能か。政治には関わらず、内心の自由として聖書のみを語っているはずが、実は国家あるいは国際的大局の深い影響下にあるという事態は、果たして今後皆無なのか。

【本体6,800円+税】
【明石書店】978-4750349312

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