【書評】 『創造か進化か 我々は選択せねばならないのか』 デニス・アレクサンダー 著/小山清孝 訳

 創造か進化か、という問いに対して、原理主義的な信仰をもつ人は「創造だ」と言うでしょうし、リベラルな信仰を持つ人は「二つは関係ない」と言うかもしれません。T.ピータースの言葉を借りれば、前者を神学と科学の「戦闘モデル」、後者を「別居モデル」と、この両方を越えていく「仮説上の一致」モデルを、つまり同じ一つのまだ見ない世界を探し求め、具体的な倫理課題を共に考えるための対話関係にある創造論と進化論のあり方を、本書は丁寧に解き明かしてくれます。

 このような現代における神学と科学の対話は、現代物理学と神学の関係から始まり、T.F.トランスやA.E.マクグラスによるリベラル神学からではないモデルが日本にも紹介されています。ただ神学者の間でも教会でもこの議論は十分には広がっておらず、その結果、重要な生命倫理や環境倫理、また自然災害やパンデミックにおける課題を十分に考察し、言葉にできていないのではと危惧する場面が残念ながら度々あります。

 今回、その中でもあまり日本語で読むことができなかった分子生物学分野と神学の対話を記した、イギリスの分子生物学者にして神学者のデニス・アレクサンダーの著書が、やはり科学者である小山清孝氏という最適な訳者を得て日本に紹介されたことを嬉しく思います。

 保守層もリベラル層も「その人のDNAは不動で、人格を決定する」という思い込みから議論しがちですが、それが誤りであることを本書は証示してくれます。そして事実は「進化」というより「多様化」であることが示されており、私は福音的な解放感すら得ました。つまり、体内でDNAは毎分、何千キロと複製される中で常に多様に変化したものも生まれ、子どもは両親とも持たないゲノム配列をも持って生まれます。その後「自然淘汰」ではなく、繁殖が続いたものが次の世代になる訳で、人間にとってそれはイエスの愛の教えに従って福祉や医療がいかに行われるかにかかっていると言うのです。そのすべてのプロセスに神が共にいること著者は信じ、語ります。

 イエスが示した神の国は異なるものが共に生きる世界であったことを思いますし、多様化のプロセスで生まれるすべての被造物と共に生きる人間の環境倫理を、またそのプロセスは「偶然」というより神の物語で導かれるべきだということを、信仰者として思います。世界がパンデミックにある現在、慰めと希望をその言葉に見もします。

 本書は専門的な知識も多く、読者によっては難しく感じるかもしれません。現代物理学と信仰については、例えば三田一郎氏の『科学者はなぜ神を信じるのか』(ブルーバックス新書)など平易に読めるものもあります。分子生物学版の同様な書を、訳者が出版されることを一読者として望みます。

(評者・濱野道雄=西南学院大学神学部教授)

【本体2,800円+税】
【ヨベル】978-4909871121

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