【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』 大橋幸泰

 「島原天草一揆の衝撃を受けた幕藩権力にとって、キリシタン禁制は徹底的に貫徹しなければならない政策となった」

 本書は「近世」歴史学者による「キリシタン」イメージの変遷史だ。時代ごとの呼称の変化を、丹念に一次資料から拾い上げ、そこに現れた時代精神と社会的状況を明らかにした。本書によれば「キリシタン禁制」の成立は、まず懸案事項に対して中央の呼びかけがあり、次に地方自治体と民衆の自主性によって動きがつくられた。そして、中央が民意に沿って制度化した。

 当時、キリシタンは「天草一揆」に代表される反社会的集団だった。要するに、テロリストと見なされていた。著者によれば、領主が仁徳ある政治を行わない間隙に、キリシタンがはびこる。また領主を信頼して仁徳ある政治を求めることは民衆の権利であった。従って、天草一揆のように武装蜂起することは、そもそも反社会的な態度である。すなわち、キリシタンの発生は、領主にとっても民衆にとっても、非常に不都合なことだった。

 1643年以降、事実上、幕府大目付・井上のもとで全国的なキリシタン摘発が開始。各藩ごと時期や手法にばらつきはあったが、徐々に伝播・拡大して、最終的に制度化される。それが1659年「五人組」「檀那寺」、1664年「宗門改役」である。諸藩の実態に合わせる形で「寺請制度」が制度化した。

 「毎年、人別に寺請という手段によってキリシタンでないことを証明する宗門改制度が全国的に成立し……表面的には、幕藩体制下に一人もキリシタンが存在しない状態となった」「幕藩権力は、外部からの流入者への警戒とともに、内部の定住民への注視を同時に行いつつ、キリシタンという宗教の根絶には仏教による監視体制がもっとも有効であるとの実感を持つようになった」

 歴史学者が詳らかにした「キリシタン禁制」の成立過程に、コロナ自粛警察と現行政府対応が重なって見えるのは気のせいか。なお講談社学術文庫版が2019年3月に発売。

【本体1,650円+税】
【講談社】978-4062585774

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