【書評】 『誰にも言わないと言ったけれど――黒人神学と私』 ジェイムズ・H・コーン 著/榎本 空 訳

 本書の訳者である榎本空は「訳者あとがき」に記す。「彼の神学を既存の神学体系──それは同時に西洋の神学体系を意味する──の中においてのみ理解しようとしてしまうなら、私たちは彼の神学と(中略)、いつまでも誠実に向き合うことができないのではないか。また反対に、彼の神学を無批判に受け入れ、それを繰り返すことに終始してしまうなら、私たちはたじろぐ機会を失ってしまうだろう」

 この一文が、本書のありようを言い当てている。本書をたじろがずに読み通すことは難しい。牧師ならお分かりと思うが、いわゆる神学校での(研究ではなく単位を取るための)勉強としての神学は、そのほとんどが西洋の神学を暗記することである。ところがコーンの語る黒人神学は、西洋の神学体系に真っ向から否を突きつける。それも、単に学問を否定するのではない。神学する白人への激しい怒りを伴っている。

 この怒りに、おそらく多くの日本人読者は戸惑いを覚えるだろう。これが学問なのか? 客観的な論文ではなく、コーン個人の文学作品なのではないか? 信仰というより黒人解放活動なのではないか? 広義のアートではあっても、少なくとも神学ではないのではないか……。西洋の神学という前提を完全に拭い去ることが難しい中で、そのような疑問に振り回されるばかりである。

 しかし、この2020年現在も、ミネソタ州ミネアポリスで黒人市民が白人警察官に不当に殺され、怒った市民たちが暴動を起こしている。コーンが本書で出発点として書いている1967年のデトロイト暴動、そしてマルコムXやキング牧師の時代から、本質的な問題は何も変わってはいないのだ。

 コーンは2018年に世を去った。彼が存命なら、この現状に対してどんな言葉を放っただろうか。いや、そんな「もしも」の話を彼は喜ぶまい。彼に続く今を生きる人々が今、どのような怒りを発しているかに、私たちは耳を傾けねばならない。

【本体3,000円+税】
【新教出版社】978-4400323570

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