【書評】 『ちょっとお話ししませんか  祈りと音楽の調べにのせて』 三澤洋史

 中学時代に「自分が音楽というものを構造的に捉えることに特別に喜びを感ずる人間であることを発見」し、高校1年で音楽家になると決意。友だちを教会に誘ってはバカにされていたクラスメイトの信仰に心を動かされ、2年の秋に教会を訪ね、牧師の対応に失望したかと思えば、カトリック教会で出会った「ゆるい」シスターの存在にホっとして、ひょんなことから洗礼前なのに奏楽デビュー。この時に出会った年下の奏楽者と音大卒業後に結婚、2人で留学、父親からの応援、断絶と和解……。

 「修道院での生活もいい。ブラザーや神父になる道も魅力的だ。だけどやっぱり自分は音楽もやりたい。聖歌も音楽には違いないが、もっとクラシック音楽の本道にどっぷりつかって、音楽の中で悩み、音楽の中で人間形成をしたい。わたしは欲張りなのかもしれないけれど、どちらか一つではなく、音楽の中で宗教も見つめ、どちらも極めていくような人生を送りたい」

 生い立ちから信仰の道までを綴った「少しだけ長い まえがき」は、まるでドラマを観るような展開に胸躍る。続いて第1章では音楽の歓びや霊性などが語られ、第3章では祈りと音楽について、教会音楽、典礼音楽についての、熱くて真面目な考察が続く。宗教とリズムの関係への言及も興味深い。かと思えば、レクイエムをネタに「悪ノリ」してマニアックな笑いを誘ったりもする。

 指揮者、作曲家で、カトリック信者である著者の音楽論と人生哲学には、大らかな信仰観がぴったりと寄り添っている。何より、天与の才を何のてらいもなく用いる著者の生き方の、なんと明るく清々しいことか。

 梅雨のうっとうしい気分もカラリと晴れる、楽しくて深い音楽エッセイ。

【本体1,000円+税】
【ドン・ボスコ社】978-4886266668

書籍一覧ページへ

TO TOP