【書評】 『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』 樋口耕太郎

 本書は少々異色の、そして出色の沖縄本である。タイトルは煽り気味、著者の経歴も華やかのひと言に尽きる。一見、「グローバル資本主義」のエリートによる沖縄本。しかし、読後の感想は、よい意味で予想を裏切ってくれる。著者の熱量と実存の余韻がキャンドルサービスのように、読者の心に残るだろう。

 今まで多くの作家、学者、ジャーナリスト、運動家が「沖縄」について語ってきた。本書は、それらを踏まえ、「沖縄の問題は、本土だけにあるのではない、沖縄の側にも内在的な問題がある」という公然の秘密について詳らかにする。しかし、その語りは決して人々を怜悧(れいり)に告発し、断罪するようなものではない。むしろ、徹底的に「人の関心に関心を注ぐ」という態度、すなわち「愛」に貫かれている。

 キリスト教から見れば、著者の言動は「隣人を自分自身のように愛せよ」という本質を生きている。沖縄と向き合った著者が、愚直に言葉を紡ぎながら、沖縄と日本の「自尊心」を育む「愛の経営」を語っている。

 著者・樋口耕太郎は沖縄大学で教鞭をとる。しかし、樋口の専門は特に「沖縄」に関わってはいない。ただ、沖縄におけるリゾート・ホテルの経営再建で辛酸をなめた日々が、彼に「沖縄」を語らしめている。「日本」の尻尾での経験は、グローバル・エリートをどのように変化させたのか。著者は、自身の経営哲学の変化を赤裸々に語る。

 もちろんタイトル「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」について、明確に答えている。例えば第一章では、一流の証券マンだからこその視点で、沖縄の「経済」構造を透かして見せる。一方で、専門家でないからこそ、誰もが実感している「人間関係の経済」を第二章で平易に言語化してみせる。日々、沖縄の人々や学生たちと向き合い、「その人の関心に関心を持つ」からこその筆致が際立っている。

 グローバル・エリートが「テン年代」以降の沖縄の変化を視野にいれて語る本書は、独特の輝きを放ちながら、戦後75年、返還・復帰後48年の読者を待っている。この夏、オススメの1冊。

【本体900円+税】
【光文社】978-4334044794

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