【書評】 『悲しみの過去を手放し 希望の未来へ』 佐藤 彰

 本書を読み始めた当初、非常に気にかかる点があった。それは、「教会員のグリーフケアについて、著者はどのように考えているのか」ということだ。本書は「原発に最も近い教会」の牧師が著したものである。東日本大震災、福島第一原発事故、そして避難地での生活……、それらを実際に経験した牧師がグリーフケアについて語らないことに、違和感を覚えたのだ。

 著者は常に、未来志向で物事を語る。それを支えているのは、イザヤ書43章の「初めからのことを思い出すな、昔のことを思いめぐらすな。見よ、新しいことをわたしは行う……」との聖書の言葉である。まさにタイトル通り、「悲しみの過去を手放し、希望の未来へ」読む者を促す説教が2本おさめられているのだが、一見すると、悲しみが未解決なまま封印され(なかったこととされ)、強引に希望が語られているような印象を抱いた。

 しかし、読み進めるうちに、それは誤解であると知る。著者の語る未来、夢、希望の言葉は、「みことば」を根拠とした、この上ない「正論」である。そして、それを語っているのは、被災者として教会員と共に「流浪」した牧師自身である。つまり、この説教は傷ついた者にとって必要な「やさしい慰めのことば」と同じように、必要だからこそ語られる希望の言葉なのである。

 そして今、「コロナ禍」の中で語られる説教(『コロナ後の世界』を生きる)でも、著者は前述の姿勢を貫くが、ここで紹介されているリンダ・グラットンという人物の『コロナ後の世界』(文春新書)の内容は興味深い。グラットンはコロナ後を生きる人に必要な三つの資質について、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」であるという。三つ目の「変身資産」とは、「さまざまな変化に対応できる力」を指すという。今まさに必要なこの力は、「震災」を通して養われたと筆者は語る。

 予想不可能な出来事の中で、変身のプロセスを助け合い、気持ちを共有し合いながら、「イエスさまを信じたらそれでもう十分だったのです」との証しを、私たちもコロナ後に語り得るだろうか。私たちの視線は今どこに向いているだろうか。本書はそこを鋭く突いてくる。

【990円(本体900円+税)】
【日本キリスト教団出版局】9784818410794

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