【書評】 『女たちの日韓キリスト教史』 神山美奈子

 これまで日韓キリスト教史の関係をめぐり、日本側、あるいは韓国側からアプローチした研究はあったものの、男性を中心に置いたものが多かった。本書は、女性史および宣教学的観点で、日韓両国に等分の重心を置き「女たちの日韓キリスト教史」を明らかにした稀有な試みである。

 著者は関西学院大学神学部卒業後、同大学大学院で神学博士学位を取得。在学中に韓国留学を経験し、日本基督教団の教会で牧会する傍ら、キリスト教主義学校での講師を務め、現在は名古屋学院大学商学部で教鞭をとる。

 本書は第一部で日本キリスト教婦人矯風会(以下、矯風会)の機関紙「婦人新報」などの資料を分析・検証することにより、キリスト教女性指導者の朝鮮宣教への取り組み、朝鮮理解を解明する。第二部では韓国フェミニズム神学を概観。韓国におけるフェミニズム研究は進んでいるが、邦訳・紹介されていなかったので意義深い。

 日本にプロテスタント・キリスト教が伝えられた初期段階で設立された矯風会は、禁酒、一夫一婦制、公娼制度廃止を掲げて活発に運動を展開。「婦人新報」を通して社会に対し大きな影響力を持った。1910年に朝鮮が併合されると、日本の女性キリスト者は朝鮮に対する日本の帝国主義的支配に、「神の国」の拡張という根拠によって迎合していった。ただし「神の国」と言っても、西欧の概念とは異なり、天皇を中心とした国家神道とキリスト教を融合させたものであった。

 日本のキリスト教会は1930年代まで「神の国」を拡張していく目的を持っていたものの、満州事変に始まる戦時下では「神の国」という表現を控えるようになった。しかし矯風会では、続けて「神の国」建設と拡大を標榜していた。

 また設立当初から皇室に熱烈なエールを送り、「欧米の文明」をもって国民を誘導する美子皇后を賞賛するなど、矯風会のキリスト教信仰は皇室との結びつきによって維持されていた。1919年の三一独立運動、堤岩里事件に関しては、朝鮮人に対して遺憾の意を表しつつ、日本の統治下に置かれる朝鮮の状況をそのまま受け入れている。

 さらに著者は、矯風会会員であった淵澤能惠が設立に関わった朝鮮の女学校の背後には、日本の組合教会と朝鮮統監府の存在があったことを究明。日本の女性キリスト者たちが、戦争時に隣国に対する日本の侵略行為に力を貸したことを明確化する。そして、「日本と韓国のキリスト者たちが、比較と考察を通して、両国における女性キリスト者たちの過去を見つめ直し、その過去の歴史と対話しながら、批判と反省を重ね続けなければならない」との言葉で本書を結ぶ。

 およそ100年前の女性キリスト者たちの言葉には、現代からすると疑問符が付されることも多いが、だからこそ耳を傾ける意味があるとも言えるのだろう。その時代キリスト者であった彼女たちは、それが神の前に正しいと思って発言し、行動していたのだ。

 著者の論文がベースとなっているため、日本語・韓国語の参考文献や註が多数掲載されている。日本だけでなく、韓国における先行研究もまとめられている点でも有用。これらの資料を元に、なおいっそうの研究が進められていくことが期待される。

【4,840円(4,400円+税)】
【関西学院大学出版会】978-4862833143

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