【書評】 『ロヨラの聖イグナチオ自叙伝』 聖イグナチオ・デ・ロヨラ 著、アントニオ・エバンヘリスタ 訳、李 聖一 編

 フランシスコ・ザビエルら同志6人と共にモンマルトルの丘で誓いを立て、イエズス会を創設したイグナチオ・デ・ロヨラ。イグナチオの回心のきっかけとなったパンプローナの戦いから今年で500年になることを記念し、世界のイエズス会とその関係者は、今年5月20日から来年7月31日(イグナチオの帰天日)までを「聖イグナチオ年」と定めている。

 本書はイグナチオの生涯を紹介する「自叙伝」だが、イグナチオの口述をイエズス会神父が書き止めたもの。この中で、イグナチオは自身を「巡礼者」と呼ぶ。エルサレムや各地を巡礼する旅はすでに終え、イエズス会総長としてローマに「定住」していたにもかかわらず、自らを「巡礼者」と呼び続けた背景には「神に向かう途上の人」という意識があったのだろうと、現・イエズス会日本管区長レンゾ・デ・ルカ氏はいう。

 「自叙伝」はパンプローナで重傷を負う場面から始まる。療養中にキリスト伝や聖人伝を読み、世俗的な望みや騎士道精神から、神に仕える聖なる生き方をしたいとの考えに転換したイグナチオは、歩けるようになると生家であるロヨラ城を後にした。モンセラット、マンレーサで激しい祈りをささげ、苦行の中で神秘的な体験をするようになり、霊的な恩恵を豊かに受けたが、同時に、悪魔の誘惑である場合もあることを知った。このような体験はのちにイグナチオの著書『霊操』の「霊の識別の規則」に生かされた。

 ローマで時の教皇アドリアノ6世の祝福を受けた後、ベネチアに赴き、そこからエルサレムに向かった。無量の感慨に浸りつつ聖地をめぐり、ここに永住して神と人々に奉仕したいと願うほどだった。しかしイスラムとの戦いが日常となっていた情勢下では許されず、やむなくヨーロッパへ。バルセロナやアルカラで学問を学び、説教を始めたが、異端の疑いで宗教裁判にかけられた。疑いが晴れて釈放され、サラマンカに行くと、今度はドミニコ会神父から審問を受けることとなり、再び獄中に閉じ込められた。

 釈放後、パリの大学に進み、ペトロ・ファーブルやザビエルと知り合って、霊操によって同志とし、「モンマルトルの誓い」をしたのは1534年。「回心」から13年も経ってからだった。次第に活動が目立つようになってくると、反対する者たちが現れた。ザビエルの回心に憤慨した者がイグナチオを悪しざまに言い出したことから始まり、スペイン人グループによる誹謗にも悩まされ、迫害は1538年の教皇判決によってイエズス会が無罪とされるまで続いた。

 ザビエルは1540年、インドに向けてローマを立ったが、イグナチオのヨーロッパでの奮闘は続く。孤児院など慈善施設を建て、求道者のための授業所を設けて布教事業を促進。決して平たんな「巡礼」の道ではなかったが、魂を注ぎ出すような深い祈りの中で主のみ声を聞き、一歩ずつ歩んだ。

 ザビエル以後の日本キリスト教史を映画の本編にたとえるなら、イグナチオの物語はその前日譚となる「エピソード0」。ザビエルが日本史の舞台に登場するまでの経緯と最も影響を与えた人物が描かれている。「キリスト教伝来」を生み出した「根っこ」にあたる背景を知ることで、本編はより感慨深いものになる。

 たった一人の人間の「回心」によって始まった物語が、ここにまでつながっていることを思うと、神のみ業の不思議さと、み前に真摯に生きることの素晴らしさに打たれずにはいられない。

【770円(本体700円+税)】
【ドン・ボスコ社】978-4886266828

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