【書評】 『死という人生の贈り物』 田頭真一

 「腫瘍マーカーが陽性だったので詳しく調べてみたところ、すい臓がんが見つかりました」

 75歳の主人公・山城勝が医師にそう宣言されるところから物語は始まっていく。余命6カ月、先に脳溢血で妻を亡くしていた山城は自分の順番になってきた死と向き合う。死に向かい合う精神的な葛藤、そして2人の息子との対話とすれ違い、孫のナオミとの心の触れ合い……。小説風に惹き込まれていく展開に続き、各章の解説として、主人公が向き合う問題の客観的事情や筆者の勧めが有効に交差していく。物語、解説、物語、解説――の抑揚ある流れがテンポよくつながり、一気に読書意欲をかき立てる。

 著者は精神科医師であった父親が沖縄でいち早くホスピス病棟を開設し、その死後、病院理事長として経営にあたってきた。ホスピスに入院してくるがん患者の心の移ろいと葛藤をつぶさに観察してきた実体験を踏まえ、山城の心の動きを書き下ろす。相続遺産に執着する長男、沖縄離島で働く医師でクリスチャンの次男、そんな世俗的物語もかみ合わせながら、山城を支えるため東京に引っ越してくれた次男一家との交流が進んでいく。山城と小学生の孫娘ナオミとの間に温かいものが流れるようになる。元小学校教師であった山城は、もともと仏教徒でキリスト教には抵抗感があった。「神様なんて、本当にいるんかいな」と。

 両親と教会に通っているナオミが、一緒に出かけた渋谷の喫茶店でお茶をしながら死に向かい合っている山城に笑いかけて話す。「牧師さんは、死は終わりじゃない。よみがえりがあるんだって言ってた」

 喫茶店を出て渋谷駅に向かうスクランブル交差点、突然山城は地面に倒れ救急車で運ばれる。延命治療を拒む山城は次男の勧めで沖縄のホスピスに入院する。そこで末期がんの患者が最後までやりたかった作詞活動を全うする姿、優しい看護師のケア、チャプレンの語り掛け、山城の心は大きく動いていく。

 家族とも心を通わせ、洗礼を受けて、愛するナオミの小学校卒業を見届け、お祝いのケーキを買いに出かける。孫娘の押す車いすに寄りかかって、桜の淡い香りと共に山城はその生涯を閉じる。

 人間がおカネや出世のことを目指して生きていくのはむしろ日常である。著者は、死に面した患者と向き合ってきた実体験から、そのことにのみ目を奪われる人生の虚しさを思い知っている。著書の帯には「死を受け止めて安らかに眠るために」と記されている。評者は、それもさりながら、むしろ誰にも一回だけの人生を悔いなく充実して生きるため、万人のための著書として受け止め感動をもって読み終えたのであった。

(評者・島田 恒=関西学院大学客員講師、経営学博士、日本基督教団芦屋西教会員)

【1,540円(本体1,400円+税)】
【幻冬舎】978-4344036857

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