【書評】 『人生を支え、老いを照らす光』 森 一弘

 日本を襲う高齢化の波。全人口のうち65歳以上が占める割合を高齢化率と呼ぶが、日本はその割合が27.3%と、世界トップクラスだ。しかも2025年には約30%、2060年には約40%に達すると予測されている。急激な変化の渦中にあって、老いを肯定的に捉えることができない人も少なくない。

 1967年、ローマで司祭に叙階され、長年カトリック東京大司教区で司教を務めた著者が、自らも老境にさしかかるなかで思索を深め、「人生を支え、老いを照らす光」が何であるかを綴った。

 「実に、身体の衰えと能力の衰えは、さまざまな形で、負の感情を人に与え、徐々に否定的な諦めの境地に追い込んでいきます。その負の感情は、それまで人生の生きがいとしてきたさまざまな仕事や周りの人に対する世話や奉仕活動からの撤退による喪失感という形で表れる人もいます。それは、仕事に熱心に取り組んできた人たちに共通するものです。 空の巣症候群という負の感情ともなります」

 生きがいや気持ちの問題だけではない。

 「もう一つ、今日の日本社会にあって、老いを迎えた誰もが直面する不安は、老後を支えるお金の問題です。

 現代社会はどの時代よりも、お金が力を持つようになった社会です。実に今わたしたちが生きている社会は、お金で動き、お金のない者は冷たく扱われ、時には無視されてしまう仕組みが、隅々にまで浸透してしまった社会です。

 お金は生活を楽にし、快適に過ごし、人生を楽しむゆとりを与えてくれます。お金があれば人も寄ってきます。心地よいサービスにあずかることもできます。しかし、逆にお金がなければ端から相手にされず、厄介な荷物かのように無視されたり冷たく扱われたりして、人間としての尊厳も傷つけられてしまうことになります。

 お金が万能の社会では、お金がなければ相手にされなくなるわけですから、定年退職し、安定した収入の道が途絶えた高齢者たちが直面する問題は、老後を支える財力の問題です」

 著者はこうした問題を等閑視せずこう述べる。

 「こうした老年期を迎えて、程度の差こそあれ、誰もが直面しなければならない、重くつらい現実のなかで、明るさを失わず歩んでいくためには、改めて人間の真の幸せがどこにあるのか、人間が何を目指して生きているのか、確認してみる必要があります」

 第2章「『幸せ』はどこに……」では、人が自らの「幸せ」を思い通りにできない理由を三つ挙げる。「一、身体の好不調に左右されるから」「二、人はひとりでは生きていけないから」「三、人はみなエゴイストだから」と。

 「それは、わたしたち人間が、それぞれみなエゴイスティックで、何よりも自分の幸せを優先しようとする傾きを持っているからです。実にわたしたち一人ひとりの存在の奥に、周りの人を押しのけてまで自分の望み、願望を通して幸せになりたいという傾きが深く根付いており、それがしばしば表に吹き出してきてしまうからです」

 その例として取り上げるのはカイン。しかし聖書の登場人物のみならず、エゴイズムと弱肉強食は人類の歴史で繰り返されてきた論理だ。

 「学校でも職場でも、さまざまな形で、強者の論理が現れてきます。そこで、涙を流すのは弱者です。実に、わたしたち人間にとっては、人との出会いは恵みであると同時に不幸をもたらす厄でもあるのです。わたしたち人ひとりが、出会う人の厄にならないためには、自らのエゴイズムから抜け出すことが求められます」

 そして、「このエゴイズムを克服し、人と人との関わり、営みの中にどのような心が、愛が求められるのかを示してくれたのが、キリストなのです。愛の中に、人間の真の幸せがあることを示してくれたのがまた、キリストなのです」と証しする。

 「人生を支え、老いを照らす光」とは、人生の道を照らしてくれる存在のこと。その光は柔和だが、力強い。願わくは、老いる前から「老いを照らす光」とともに歩みたい。

【1,430円(本体1,300円+税)】
【女子パウロ会】978-4789608275

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