【書評】 『ヤバい神』 トーマス・レーマー 著、白田浩一 訳

 タイトルからしてすでに「ヤバい」本書は、副題に「不都合な記事による旧約聖書入門」とあるように、旧約聖書において難解と思われがちなテクスト箇所をあえて積極的に抽出し、釈義・考察した斬新な1冊である。

 著者はドイツ生まれのスイス人旧約聖書学者、言語学者、改革派教会牧師でもあるトーマス・レーマー氏。ジュネーブ大学とローザンヌ大学での職務を経て、2007年からフランスにおける学問・教育機関の最高峰コレージュ・ド・フランスで教鞭を執る著名な神学者。

 旧約聖書には、理解するのに困難な箇所がいくつも存在する。例えばヨシュア記における好戦的な神の姿。該当する聖書テクストは歴史上戦争を肯定する際に何度も利用された過去があり、キリスト教が平和の宗教と呼称されることに反発する識者が引用することもある箇所である。また、アブラハムによるイサクの燔祭(神の命令により息子イサクを生贄として捧げる場面)も非常に残酷な物語であり、現代の価値観では理解に苦しむ聖書テクストの一つである。他にも、神の性別に関する議論や、そもそも人間は神を理解できるのかというあまり考察することのないテーマについても本書では前のめりで論じられている。

 著者が一貫して主張しているのは、旧約聖書における歴史的背景理解の必要性。例えば神について教会教父や宗教改革者、啓蒙主義者たちが執筆したものを同時代の作品として歴史的背景を無視して読むことは不可能である。むしろそれらを考慮して、読者は内容理解に努めるだろう。同様に旧約聖書においても執筆時の歴史的背景や習慣、宗教的背景などを理解する必要がある。

 旧約聖書は新約聖書に比べあまり注目されることもなく、むしろ新約聖書を補完するものと認識されることもある。しかし、新約聖書記者たちの時代における聖書とは旧約聖書であり、それらを土台として新約聖書が執筆されたことは明白である。結論で著者は以下のように述べる。

 「キリスト教徒が真剣に受けとめねばならない事実がある。それは、旧約聖書は単なる序章以上のものであるということだ。ヘブライ語聖書(旧約聖書*編集部注)がユダヤ教徒に、キリスト教徒に、そして全人類に対して示している神は、絶えず問いかけ、驚かせ、私たちの堅固にすぎる神理解に疑問を投げかけて止むことがない」

 難解な聖書テクストを、歴史的背景の理解によって明解に考察するための一助としたい。

【2,420円(本体2,200円+税)】
【新教出版社】978-4400119081

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