【書評】 『呻きから始まる 祈りと行動に関する24の手紙』 栗田隆子

 本書は、著者自身の薄めることも飾ることもない正直な人生の呻きであり、呻きから始まる「祈り」である。反響を呼んだ『ぼそぼそ声のフェミニズム』に続く第2作。著者は大阪大学大学院で哲学を学び、その後非正規雇用者として働きながら、貧困問題や女性問題、社会の枠組みが生み出す矛盾と課題に目を向け、声を上げ、文章や行動を通して活動している。

 時系列に沿ったテーマごとの短い24の章からなる。登校拒否、神との出会い、教会と洗礼、家族を愛すること、フェミニズム、進学と恋愛、研究への失望、非正規雇用、社会運動、うつ病、文筆業といったテーマを、「誰に届くかわからない、けれど読んでくれるあなたへと生きた証として、手紙として」綴っている。

 社会の狭間に生き、声なき声として消されてしまうような小さな歪み、違和感を矮小化することも、誇張することもなく自らが当事者として悩み、迷いながら言葉にしていく。

 「その経験を通して自動的に『支援者』の枠組みに入れられたこと、『若い女性』となるとホームレス状態の男性に対して娘のような独特なケア役割を期待されるといった違和感を熱心に書き出したのです。……研究雑誌でも商業媒体でもない、ほんのわずかの身内しか読まないような場所でものを書き出すこと。それが私の『運動』の始まりでもあり、また大学院をやめてなお残った、賃労働ではない作業でした」(#16「知らないうちについていってしまった」162~163頁)。

 一貫して貫かれるテーマは、言葉にならない呻きを全身全霊をかけて神にすがる「祈り」である。

 「自分の感情のままに呻き、つぶやいた後に感じた静かな『震え』そこからもたらされた安堵によって、私は初めて神の前で『自分の感情に正直であること』『自分で自分を騙さないこと』の重みを知ったのです。そして『正直であること』は誰かを『愛する』前に絶対に必要で、そこからもたらされる不思議な安堵こそ『神から愛される』という経験なのではないか?とおぼろげに感じ始めたのでした」(#5「聞くということ」59~60頁)。

 それは苦しみに向き合い、自分を省み、言葉では説明できない呻きに「祈り」を通して向き合う姿勢でもある。

 「『問題』を起こすことで初めて注目されるこの現実こそがまさに問題だ、とそのときしみじみと思いました。レトリカルな言い回しになりますが、私たちが何を『問題』とし、何を『問題』としないかというその線引きの仕方こそが、目につきにくい『問題』ではないでしょうか。そしてそのような苦しみや悲しみを既存の『問題』の枠組みに無理やり当てはめるのではなく名前がないままに受け入れること、その実践の第一歩が私にとっての『祈り』だったと言えます」(#24「心に留めること/糧」230~231頁)。

 著者にとってまさに「祈り」とは、この現実社会の矛盾を、白黒はっきりできない、どうしようもない複雑な思いを「心に留め」神の前に注ぎ出すという行為である。搾り出される言葉と描き出されるリアリティに引き込まれつつ、著者の生き方の原動力となっている「祈り」の奥深さについても考えさせられる。

【2,200円(本体2,000円+税)】
【新教出版社】978-4400517689

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