【雑誌紹介】 現代の見えざる教会となるクラブ 『福音と世界』10月号

 ヒップホップとキリスト教の関係について論じる山下壮起(日本基督教団阿倍野教会牧師)の連載「フッド・スピリチュアルズ――インナーシティの霊性」第4回「We Still Crunk!!」。

 「霊性は、支配に拘束された現実のなかに解放された世界をこじ開ける。想い起こしてみてほしい。初代のキリスト者の集まりにおいて礼拝を献げることは、ローマ帝国の支配という現実のなかで、解放された空間<神の国>を発現させる営みだったということを」

 「奴隷制のなかにあった黒人たちの生を支えたのは礼拝であった。奴隷とされた者たちは監視を離れて集まることを禁じられており、農園監督の目が届く会堂での礼拝だけが許されていた。そこで、かれらは真夜中に森の奥深く、沼地の先に密かに集まり、そこで礼拝を献げた。『見えざる教会invisible church』や『賛美の小屋praise house』と呼ばれたその場所に集まった人びとは、手を叩き、体を揺らし、そして、叫びをあげて神を礼拝した」

 「礼拝とは解放された身体によって自由な空間を創造し、そこに全身をゆだねる神秘主義的な営みといえる。奴隷制やその後も続いた人種隔離政策のなかを生きた南部の黒人たちの霊性の実践は、ヒップホップにも大きな影響を与えている。リル・ジョンもそうしたアーティストの一人である」

 「DJとしてのリル・ジョンの意図は、彼の決まり文句である『Get crunk!!』というスラングに集約される。それは、クラブのダンスフロアで恍惚状態になるまで踊り、騒ぐことを意味する。……ダンスフロアで踊る者たちが『get crunk』して内に秘めた生の力を放出するとき、そこには混沌が生じて秩序は崩壊し、解放された世界が立ち現れるのだ。奴隷制を再構築するような人種差別の構造に支配された現代アメリカにおいて、クラブは見えざる教会となり、若者たちの霊性によってもう一つの別の世界がそこに生起するのである」

【660円(本体600円+税)】
【新教出版社】

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