【書評】 『男性中心企業の終焉』 浜田敬子

 2022年7月に「世界経済フォーラム」が発表する日本のジェンダーギャップ指数の順位は146カ国中116位。この10年、女性活躍や多様性、女性の地位向上や働きやすさへの支援が議論され、後押しされてきたはずなのに、なぜ順位は後退し、日本の男女格差は縮まらないのか。

 日本企業の取り組みや海外との比較、さまざまなデータや研究結果、何より著者自身の取材をもとに日本の働き方、会社論について分析する。切実な現実の問題を踏まえての分析と問題提起は、著者自身が元AERA編集長として「Business Insider」日本版編集長としてこの数十年の働き方、ジェンダーギャップや構造的差別を追い続け、また身をもって感じてきたことに基づく。

 もはや経済的利益を上げていれば会社は良いという時代は終わった。環境、人権、貧困、感染症、そしてジェンダーギャップの是正という地球規模の課題に取り組むことがCSRとしての会社の常識になりつつあるだろう。そのような理念が受け入れられつつも、逆方向へと進んでいるかのように見える日本社会とその働き方を鋭く分析し、将来への問題提起を発する。

 「ジェンダー平等は、『女性活躍』への『飽き』との戦いでもある。『女性活躍』という日本独自の文脈から、国際的なスタンダードであるジェンダー平等に目標を置き換えれば、道半ばどころか、端緒にもついていないと気づく企業は多いのではないか」(第2章「日本の『ジェンダー失われた30年』と加速する世界の動き」より)

 今の日本社会はいまだにジェンダー平等、働き方改革の歪みと混沌の中にある。著者によれば日本社会は以下の三つの時期を経験している。1986年から99年までの男女雇用機会均等法、2000年から08年までに整備された両立支援制度、そして2010年以降の「女性活躍推進」期。女性は「保護」から「配慮」の対象になり、さらに「戦力」になってもらうという動きが本格化したという。

 女性の働き方への制度がそこまで整備されていなかった分、自助努力(著者の場合は地方の親を呼び子育てをほぼ丸投げしていた例など)によって働き続けてきた均等法世代である著者やさらにその上の世代と、さまざまな制度が導入された後の世代との働く意志の格差についても自らの反省と自覚を踏まえながら考察する。

 「自分たちの仕事術を無意識に勧めてしまったのだと思う。しかし、時代の変化、世代による価値観の変化を理解していない言葉は届かないどころか、ますます溝を深くしてしまう」(第6章「ロールモデル不在と女性たちの世代間ギャップ」より)

 著者は女性蔑視の言動には毅然とした態度で指摘したいと望む一方、「変われない」「変わらない」社会の構造を変えていくためには多様性の豊かさと楽しさを伝えたいとも述べる。「自分とは違う考え方、発想の仕方や価値観の人と働くことは最初、コミュニケーションに多少労力を要する。多様なメンバーの価値観が反映されたものの方が、よりカラフルでさまざまな人に届き、共感してもらえるということだった。多様性は豊かさなのだということを一人でも多くの人に知ってもらえたらと思う」(「おわりに」より)

 実際には企業内「働き方改革」のみならず、就活におけるジェンダーギャップ、その根底にある教育におけるジェンダー差別、無意識の差別を考えていかなくてはいけないだろう。働き方を変えるには意識を変える必要がある。意識を変えるには、これまでの常識を問い直す批判的思考が必要になる。

 「男性中心」の体質は企業だけに留まらず、日本社会全般に及ぶ。無論、教会もその例外ではない。歴史的にも明らかな性差別を、「宗教的言説」で説き伏せようとする力は今も厳然とある。周回遅れのキリスト教界は、これらの問題提起にどう応答し得るだろうか。

【1,078円(本体980円+税)】
【文藝春秋】978-4166613830

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