【書評】 『あらすじで読む三浦綾子 名著36選』 森下辰衛 監修

 今なお根強い人気を誇る三浦綾子。多作な作家でもあり、生涯に世に送り出した作品は80作以上。本書はその中から厳選して36作品を選び、三浦綾子読書会代表である森下辰衛監修のもと、あらすじで味わうアンソロジー。

 「三浦綾子が他のキリスト教作家と最も異なる点は、信仰と生活を文学よりも大切にする人であったことだろう。彼女の文学は閉じられた内面世界において書かれたのではなく、苦難に満ちた自分の実人生の上に育てられ、神との対話によって熟成され、共に生き、口述筆記する夫との協働の中で産み出されていった」(森下辰衛「今、なぜ三浦綾子なのか」)

 三浦文学には、『氷点』のような小説もあれば、『道ありき』などの自伝、『愛の鬼才』をはじめとする伝記、『細川ガラシャ夫人』といった歴史小説もある。各作品に付された《背景と解説》が作品への理解を大きく助けてくれる。

「教育と伝道に人生を捧げた西村久蔵を描く

愛の鬼才 あいのきさい

《背景と解説》

 一九八二年五月『小説新潮』に『愛の鬼才』の連載が始まった月に三浦綾子は直腸がんが発見され、旭川赤十字病院に入院した。まさに絶筆になるかもしれないという思いの中で、綾子はこの作品に全力を注いだ。……札幌北一条教会の資料室に残る堀田綾子の洗礼志願書には、五二年七月五日に青インクで書かれた久蔵のペン字が残る。ギブスベッドの綾子に代わって彼が口述筆記したものである」

 晩年には、人間の闇を描くサスペンス仕立ての小説や、雑誌『セブンティーン』に連載された10代の少女向け恋愛小説なども手掛けている。金と性への底知れぬ欲望と虚栄など、神の愛から離れた罪の世界をストーリーに取り込みながらも、それを超えた愛の真理へと読者の目線を導いていくのが三浦文学の醍醐味だろう。

 「多喜二が殺された二月を迎える辛さを綴った文を近藤先生に見せたとき、近藤先生は『イエス涙を流し給う』という聖書の言葉を教える。セキはその言葉を何べんも何べんも思うのだった。『イエスさまはみんなのために泣いてくれる。こったらわだしのために泣いてくれる』。セキが一生を語り終えた部屋から見える海には、夕光がこの世のものではないもののように映えていた」(虐殺された小林多喜二の母セキの悲しみと癒し『母』)

 多作な作家のファンに多いのが、ストーリーやキャラクターが混じってしまい、細部が分からなくなってしまうといった悩み。だが三浦文学は、時間をおいて読むとまた違った読み方ができるという特長がある。人生を経て自分が変わったために、感じることが変わり、異なるキャラクターに共感できたりするのだ。「あらすじ」で読んでおさらいするのもいいし、興味が引かれた作品を手に取るのもいい。

 「初めまして」の読者にも、往年のファンにも、以前読んだ時の感興を思い出したい人にも、それぞれへの光が三浦から届けられるに違いない。

【1,760円(本体1,600円+税)】
【日本キリスト教団出版局】978-4818410398

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