【雑誌紹介】 リスペクトある眼差しを 『福音と世界』2月号

 マイノリティ宣教センターが責任編集を務める特集「何が『われわれ』をつくるのか――〈共感〉をめぐって」。桜井智恵子(関西学院大学人間福祉学部教員)が「〈われわれ〉への叛逆――子ども・若者の全体性と自由」と題して言う。

 「評価という価値観で包摂される子どもと子どもを取り巻くおとなたち、それを支える社会のシステムの中で、子どももおとなも〈われわれ〉からこぼれ落ちないように、均一化されつつ分断されている」

 「〈われわれ〉はたくさんの〈私〉が集まって形づくられるが、その〈われわれ〉が特定の価値に従うよう〈私〉に自己調整を求める。それがいわゆる新自由主義の特徴の一つである」

 「筆者が関わってきた子どもオンブズパーソンの個別救済現場では、近年ほぼすべての子どもの案件でスマホの扱いが大きな問題になった。自分自身のスマホである。自分のスマホが、自らを監視するツールへと変貌する。友人関係がシリアスに問題化した場合、閉ざされた〈われわれ〉の中で、返信しない行動は〈われわれ〉からの懲罰対象とされる」

 「〈われわれ〉に分断をもたらした構造とは、競争力の要求や雇用機会が縮小された不安定化された経済社会であり、その環境ゆえに生まれたSNSやネット世界という子ども・若者が集まる共同体がある。〈われわれ〉は、個別化され競争せざるをえない経済社会という同じ問題状況下で分断させられている。その原理を理解することが〈われわれ〉の在り方の可能性を開くだろう」

 風巻浩(東京都立大学特任教授)は「『学びほぐし』による『共感』のつらなりをつむぐ」の中で、県立高校での社会科教員時代を振り返る。

 「ある日の授業で、ブラジルのストリート・チルドレンのビデオを受講生たちに見せた。貧困のなかで犯罪に手を染めてしまう子どもたちの姿がそこにあった。ビデオを視聴したあとに、『どうすればよいのだろう』と問いかけて、感想を書かせた」

 「第三世界の社会にある貧困の問題に気づいて欲しいと思ってビデオを見せたのだが、……いわゆる『おたく系』の生徒が、『子どもたちをみんな殺してしまえば、問題は解決する』と書いてきたのだった。スラムの子どもたちへの共感を彼は持つことができないようだった。このときの高校生の姿は、その一〇年後くらいから始まる、ネット上でヘイトスピーチをおこなう人々の姿と、僕には重なって見えてしまう」

 「『リスペクト(respect)』は、一般には『尊敬』と訳すが、言葉を分解すれば、re-spectであり、他者の眼差し(spect)に呼応する眼差しがそこには潜んでいる」

 「身体性のある出会い、他者との濃密な関係、コフリクトとその止揚(アウフヘーベンン)、そして、ありのままの存在に向き合うリスペクト溢れる眼差し、そのようなものが織りなされた場が学びほぐしを可能にし、そのとき、わたしたちは解きほぐされていく」

【660円(本体600円+税)】
【新教出版社】

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