【書評】 『〈ウェストミンスター信仰告白〉歴史的・分析的註解』 松谷好明

 待望していた著作が出ました。日本における『ウェストミンスター信仰規準』研究の第一人者である著者の、本格的な「ウェストミンスター信仰告白」註解です。これまでにも同信仰告白の解説書がなかったわけではありませんが、これほど本格的な註解は初めてで、画期的な内容です。その意義を3点に絞って紹介したいと思います。

 第一の意義は、本書は題名にあるとおり、「分析的」註解であるということです。「分析的」というのは、次のような意味です。アメシウス(ウイリアムズ・エームス)の『黄金の鎖』はじめとするピューリタン神学者の多くの著作は、フランス・ユグノーの論理学者ペトルス・ラムスの「二分法」と呼ばれる論理構造で著されていました。スコラ主義神学の基礎であるアリストテレス論理学と決別するためです。著者の訳書『ウェストミンスター信仰告白』三訂版には、同信仰告白全体のラムス的分析図表(著者自身の手による)が掲載されていましたが、今回出された『註解』は、同信仰告白の全体構造だけではなく、全33章と全節の本文自体も二分法によって構成されていることを明らかにしています。これによって読者は、これまでのささやかな解説だけでは得られなかった、テキストそのものに肉薄していく理解を得られることと思います。

 第二の意義は「歴史的」註解であるということです。著者の長年にわたる歴史的研究によって得られた知見が、本註解に縦横に生かされています。宗教改革期の文書ですから、一方ではローマ・カトリック教会、他方では急進派に対する論駁が為されていることは当然のこととして、さらに「ウェストミンスター信仰告白」を生み出したウェストミンスター神学者会議において、例えば長老派と独立派の深い対立であるとか、無律法主義に対する論駁であるとか、そこかしこのテキストに記されている、背景となっている当時の論争にも目配りをして、丁寧な解説が綴られています。

 第三の意義は、こうしたこれまでの積み重ねの中で蓄積されてきた歴史的研究の成果の重要な部分を一覧にした、6点の資料が付いているということです。特に「ウェストミンスター信仰告白の歴史的背景」という図表は、年表形式において他の改革派諸信仰告白文書や歴史的事件・論争などの関連が一覧できるようになっています。さらにこの資料篇には、トマス・アクィナスの『神学大全』、トリエント公会議の教令、『ローマ・カテキズム』、リチャード・フッカー『教会政体法論』、ジェームズ・アッシャー『神学体系』の概要が収められていて有用です。アッシャーについては、『ジョン・ボールとジェームズ・アッシャーの契約神学』という小論を若いころに書いたことがあり(明治学院大学キリスト教研究所『紀要』第30号)、懐かしく思いました。

 本註解は、著者の長年にわたる研究成果がふんだんに盛り込まれているとともに、それが凝縮された内容となっています。これからの『ウェストミンスター信仰規準』研究は、本註解を抜きにして語ることはできないものとなりましょう。願わくは本書が英訳されて、日本だけではなく、世界に発信されていくことを心から願う次第です。

(評者・三川栄二=日本キリスト改革派稲毛海岸教会牧師)

【11,000円(本体10,000円+税)】
【一麦出版社】978-4863251465

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