【書評】 『10代から知っておきたい女性を閉じこめる「ずるい言葉」』 森山至貴

 「ずるい言葉」とは、相手を傷つけたり、自由な言動をさえぎったりする言葉。社会のなかでそんな「ずるい言葉」を浴びせられるのは圧倒的に女性が多い。昔からよく使われるフレーズだからと、何の気なしに言ってしまっていることもあるだろう。本書では、女性が投げかけられることの多い「ずるい言葉」を集め、それらの言葉から逃れる手がかりを考える。シーン別の会話例を挙げ、言われた時のモヤモヤの正体を解きほぐし、そこから抜け出すための考え方を提示する。「なんでそう言っちゃダメなのかわからない」という人にもお勧め。その言葉の背景にある思考の間違いに気づかせてくれる。

 「シーン① あなたには子どもがいないからわからないよ:……他人から『経験したことのないあなたにはわからない』と言われたらどうしたらよいでしょうか。私なら『そうかもしれませんね』と返答しておきます。相手が『わかる』のハードルを高く設定したい気持ちを尊重しつつ、共感の回路をこちらからは閉じないよ、と宣言しておく。あとは相手にゆだねて気長に待つ、くらいでよいのではないでしょうか。

 【抜け出すための考え方】『わかる』のハードルは上下するからこそ、ハードルを下げてほしくないと思う側は『経験したことがないあなたにはわからないといった極端な発言をしてしまいます。その極端さが悪循環を生むことを理解し、お互いの経験の違いが共感の回路を遮断しないよう、開いておくべきでしょう」

 シーン⑤は「女性のわりには話が通じるね」。このフレーズには、女性は融通が利かず、男性は融通が利くことが長所だという考えが現れているが、そもそもその前提は正しいのか。シーン⑦「女性ならではの視点」といったフレーズも気をつけたい。「女性ならではの視点」を求めることは、個々の女性に「女性の代表として語る」という不当な要求を課すことになるケースが少なくない。男性にそれが求められていないのだから、女性にも個人として経験をふまえた意見を求めるべきだろう。

 「シーン⑨ 女子力が足りないんじゃない?:……『女子力がある』や『男気がある』と言われて、まんざらでもない、という気分が生まれることがあります。長所の指摘にうれしくなるのはわかります。ただ、褒められて気分がよいから『女らしさ』『男らしさ』の押し付けに問題はない、と言えるかは別問題です。……また、少しでも『女子力』や『男気』が失われたと判断されると『女のくせに』『男のくせに』と否定されかねない点も不当でしょう」

 シーン⑫の「本物の女に見えるね」は、トランスジェンダーの人に向けて褒め言葉のように使われるフレーズ。「本物の女性に見える」という表現は、逆に「本物の女性」ではないと言っているのと等しく、極めて不適切だ。善意からの発言であったとしても、その背後にある、相手への尊重を欠いた無自覚な言葉の暴力性に気づきたい。

 「コラム6 更年期障害なんじゃない?:ちょっと怒ったり、きつい言葉を使ったりするとすぐ『更年期障害じゃない?』とからかわれたら、怒りも増すというものです。どんなに正当な怒りも、更年期障害を理由にされたら、その正当性が失われてしまいます。相手の言葉を受け止めない理由を相手に押し付けて正当化する、卑怯な言葉だと思います。

 ……正当な怒りはその場できちんと受け止める。理不尽に思えたら受け流し、相手が落ち着いた頃を見計らって相手の心と身体を案じていることを伝える。更年期障害はそうやってみんなで乗り切っていくべき困難なのだと思います」

 痴漢などの性暴力で頻繁に問題となるのが、二次被害。性暴力そのものも十分に辛い体験だが、その後に関わる警察官や家族、友人知人の言動によってさらに傷つけられることがある。シーン㉔「そんな恰好してるのもいけないんじゃない?」はその一例だ。「被害者の側にも落ち度があった」と被害者のほうを非難してしまうことを、心理学の分野では「犠牲者非難」という。どのようなメカニズムで「犠牲者非難」が起こるのか、またどこが間違っているのか研究されている。

 「性暴力の被害者に落ち度はありません。したがって性暴力にあわないように『自衛』をしなければだめなわけでもありません。そのことを、『自衛』をする必要がない側の人間こそ、よく理解しておくべきです」

 本書には28のシーン、七つのコラムが収められているが、典型的な例を挙げただけで、バリエーションは無限にある。単なるハウツーとして、「口に出してはいけない言葉」を知るのでなく、その底流にある心理を自覚化することに本書の主眼が置かれている。

 巻末の付録は、自分が気になった言葉を書き込める空欄を設けたページ。その瞬間その場では、なぜ自分が相手の言葉にモヤモヤ・イラっとしたのかわからないことがある。しかし書き込んで客観視することで、「ずるい言葉」を見抜けるようになっていく。「ずるい言葉」は男性が女性に言うパターンばかりではない。女性が女性に、あるいは自分が自分に言って、自らを「閉じ込め」ている場合もある。

 人間にとって性別という要素は重要だが、その重要な要素を社会でどのように尊重していくことができるのか。あまりにも多くの「ずるい言葉」で制限されてきた女性の生き方。その課題に、社会の一員として男性と女性がともに考え取り組んでいきたい。

【1,650円(本体1,500円+税)】
【WAVE出版】978-4866214436

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