【書評】 『共に生きる「知」を求めて アジア学院の窓から』 荒川朋子

普遍の「知」を求めるすべての人に

 本書は、アジア農村指導者養成専門学校(学校法人「アジア学院」)校長、荒川朋子氏が就任以来、同校で語ってきた式辞、寄稿文、講演などを所収する初の(待望の!)著書だ。同校は1973年に開設され、「主イエス・キリストの愛にもとづいて、世界の農村社会の人々の向上と繁栄に献身する中堅指導者を養成し、公正で平和な社会の実現に寄与すること」を目的とし、毎年、世界の農村地域社会から農村指導者を招いて職員、ボランティアと共に生活しつつ9カ月間の指導者養成プログラムを行っている。

 1995年から同校職員を務め、2015年校長に就任した著者は、毎年の入学式、卒業式はじめ折々の機会を通じて内外に同校の理念を繰り返し、新しく、提示し続けてきた。震災後の社会、コロナ禍などの変化の中で、同校の果たす役割を常に考え、対話し、実践していく。アジア学院は単に有機農業者養成所ではない、と著者は語る。「人間開発」「サーバント・リーダーシップ」「自己変革」「分かち合う」など本書を通じて登場するいくつかのキーワードは、農業から離れても、真摯に生き方を求めるすべての人に響いてくる。

 「皆さんは、日本で近代化が生み出すものの醜さ、弱さ、もろさ、そして人間を疎外し抑圧する面もしっかりと目撃したはずです。だからこそ皆さんの夢は、多くの世界が目指す近代化や個人主義とは違うものになったのだと思います」と卒業していく参加者たちに著者は言う(87頁)。サーバント・リーダーとして呼びかける。「自分は何のために、誰のために働いているのか、何のために生きているのか、自分のやっていることを大きな視点で、また地球規模で自分はちゃんと理解しているか、また逆にしっかりと自分の足元や周りが見えているか、困っている人に仕えているか、自分にこれらの質問を問い続けてください」(29頁)。

 生きざまと言葉とは不可分である。人格的出会いと対話による草の根の活動、自己反省に根ざしてこれを地道に続けること、そこから出る言葉が、まことの「知恵」として心に響くことを本書は改めて教えてくれる。「これからも伝えるべき普遍の『知』」(155頁)は、このような地道な歩みの中から出て来ることがわかる。本書は、アジア学院を知りたい人はもちろんのこと、人間として生きる道について考えるすべての人に、強く薦めたい。

(評者・北中晶子=国際基督教大学教会牧師)

【1,320円(本体1,200円+税)】
【ヨベル】978-4909871800

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