【書評】 『キリスト教は役に立つか』 来住 英俊

「同伴者の神」を実感させる入り口になった「キリスト看板」の神秘

 

 郊外を歩いていると、時折黒地に黄文字で「神と和解せよ」などと書かれた金属製の看板(通称「キリスト看板」)が、家屋や塀に貼られているのを見ることがある。その色彩や周りの風景とのミスマッチから、独特の雰囲気を醸し出している。

 著者が信仰上、“具体的な手触りを持つ言葉”“指針となる言葉”として血肉化している言葉は「和解」である。そしてこの「和解」という言葉が最初に彼に迫った、そのきっかけがあの看板であるというのだ。おそらくあの看板が多くの人にとって奇妙に見えることは、著者も知っているだろう。実に大胆な告白である。

 本書は、神あるいはイエスが“共にいる”ことを繰り返し語る。特にイエスについては、最初視界にも入らなかった存在が、いつの間にかその隅に入り始め、次第に無視できない存在となり、ついには「私」ではなくイエスが世界の中心となる、その変容を図も駆使しながら説明している。

 神が私と共にいる。そう感じるようになるきっかけは、人それぞれである。当事者にとってきっかけとなった出来事は、他人から見れば、つまらない、あるいは奇妙でさえあるようなことかもしれない。それが先述した「神と和解せよ」看板の出来事に象徴的に言い表されている。

 あの看板から実存的なメッセージを読み取る人がいる! それは、「こんなものが信仰の入り口になるはずがない」という読者への挑戦ともなる。

 同伴者の神がいると、誰にも言えない辛いことのすべてを、神だけには打ち明けられていい。だからキリスト教は、あなたの役に立つはずだ――タイトルどおりの内容である。では、実際に本書を読んでみて、キリスト教は役に立つと納得できるか。それは著者自身のあの看板との出会いにも通じる神秘である。

【本体1,300円+税】
【新潮社】978-4-10603-800-6

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