【書評】 『プロテスタンティズム : 宗教改革から現代政治まで』 深井 智朗

宗教改革から500年を経てプロテスタンティズムが示しうる可能性

 

 ルターはカトリック内の改革を目指したが、後継者たちはやがて別の宗派を形成することに。そこには神聖ローマ帝国の領邦貴族らの思惑が複雑に絡む。さらには、宗教改革それ自体を改革しようとした人々の出現。この「改革の改革」を志した人々はやがてアメリカにわたり、国家とは無関係の諸教会を作っていく。各教会は信徒獲得の市場競争を始め、それは自由市場のルーツとなり、この世の成功は神の祝福のしるし、すなわちアメリカンドリームの発想がここに生まれる──我々が今日知るアメリカ的な発想の多くがプロテスタンティズムに淵源をもつことを、本書で概観することができる。

 教皇を否定したことによって、プロテスタントは聖書が支柱となった。だが教皇の聖書解釈が教会の聖書解釈であるということで一致していた教会は、それぞれの聖書解釈の違いによって分裂を繰り返すことになった。そしてプロテスタント同士が血みどろの争いを重ねていくなかで、彼らは妥協や共生の作法を模索し始めることになる。自らの信仰を損なうことなく、他者の信仰を尊重することは可能か──この未完の「共存の作法」に、著者は争いの絶えない今日の世界にプロテスタンティズムが示しうる可能性を見出している。

 本書のクライマックスでルターが現代によみがえり、世界中のプロテスタントを旅して、そのあまりの多様性に目を回す場面がある。マックス・ウェーバーが今よみがえって本書を手にとったら、どんな感慨を抱くだろう。ルターはめまいを起こしても、ウェーバーは微笑んだかもしれない。

【本体800円+税】
【中央公論新社】978-4-12102-423-7

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