美術評論家の山田五郎さん〝帰天〟 聖書の物語を「オトナの教養」に 2026年7月28日

西洋美術をはじめ、時計、ファッション、街、サブカルチャーなど幅広い分野を軽妙に語った評論家、編集者の山田五郎さんが7月14日、原発不明がんのため〝帰天〟した。67歳。所属事務所が22日、公式YouTubeチャンネル「山田五郎 オトナの教養講座」で発表した。山田さんは2024年にステージ4Bの原発不明がんを公表し、治療を続けながら活動していた。葬儀ミサおよび告別式は7月18日、東京カテドラル聖マリア大聖堂(東京都文京区)で行われた。
カトリック信徒だった山田さんは生前、自らの信仰を前面に押し出すことは少なかったが、その仕事を振り返ると、聖書やキリスト教美術を、日本の一般視聴者に最も親しみやすい言葉で伝えた一人だったと言える。
1958年に東京都で生まれ、大阪で育った。上智大学文学部新聞学科在学中、オーストリアのザルツブルク大学で西洋美術史を学んだ。卒業後は講談社に入社し、「Hot―Dog PRESS」編集長などを歴任。独立後はテレビ番組「タモリ倶楽部」「出没!アド街ック天国」などに出演し、博識でありながら、知識をひけらかさない語り口で親しまれた。
その本領が発揮されたのが、2021年に始まったYouTubeチャンネル「オトナの教養講座」だった。作品の構図や技法だけでなく、画家の生涯や時代背景、注文主の事情まで掘り下げ、「名画」を遠い権威から、人間臭い物語へと引き戻した。登録者は訃報発表時に80万人を超えていた。
キリスト教美術も同様だった。受胎告知、キリストの受難、最後の審判、聖人の殉教といった、日本人にはなじみの薄い画題について、聖書の物語や教会史をかみ砕いて解説した。信仰を勧めるのではなく、「なぜこの人物が描かれているのか」「なぜこの持ち物が聖人を示すのか」といった素朴な疑問から、宗教画を見るための扉を開いた。
奇しくも山田さんが〝帰天〟した7月14日には、新著『アルケミスト双書 光の西洋絵画史』全5巻=写真=が創元社から刊行された。「旧約聖書 創世記・出エジプト記篇」「新約聖書 キリストの生涯篇」「新約聖書 聖母マリア・洗礼者聖ヨハネの生涯篇」など、聖書とキリスト教伝承を主題とする宗教画を集中的に扱ったシリーズである。闘病中に書き下ろされた。
山田さんは同書で、宗教画が退屈に見えるのは、描かれた画題の意味が分からないためだと説明している。知識がなければ、細密さや残酷さに目を奪われるだけで終わる。しかし物語を知れば、同じ聖書の場面にも画家ごとの解釈と個性があることが見えてくる。その姿勢は、一方的に「正しい見方」を教えるものではない。見る人が自ら面白がるための足場を渡す、編集者らしい営みだった。
教会はしばしば、聖書や信仰をどう社会の言葉へ翻訳するかに苦心する。山田さんは「伝道」を掲げることなく、美術を通して聖書の世界を教会の外へひらいた。神学用語を使わず、画家の欲望や葛藤、権力者の思惑、人間の失敗を語ることで、宗教画を過去の遺物ではなく、現代の人間にもつながる物語として示した。
公式チャンネルには、山田さんが死期を悟りながら収録した最後の講義が残されている。テーマは、ラテン語で「死を想え」を意味する「メメント・モリ」。西洋キリスト教美術が繰り返し描いてきた主題でもある。事務所は、講義を通して視聴者それぞれが山田さんの最後のメッセージを受け取ってほしいとしている。














