「Jesus」を掲げ横アリ1万2500人 Kvi Babaが歌う弱さと希望 2026年9月5日

ステージに浮かび上がったのは、巨大な十字架だった。
クリスチャンであることを公言するラッパー/シンガーソングライター、Kvi Baba(クヴィ・ババ)が8月27日、横浜アリーナ(横浜市)でワンマンライブ「Shout Out to Jesus in YOKOHAMA ARENA」を開催した。公演は完売し、主催者発表で1万2500人を動員した。
音楽・ファッションメディア「Hypebeast ジャパン」のライブレポートによると、会場が暗転するとスクリーンにレーザーで十字架が描かれ、観客一人ひとりを神が知り、抱きしめていることへの感謝を告げるモノローグが流れた。「Jesus Loves You」「Shout Out to Jesus」との呼びかけに続き、Kvi Babaが登場。代表曲「愛槌」でライブの幕が開いた。
「Jesus」の名を公演タイトルに掲げ、十字架を真正面から演出に用いる。一方、そのステージは教会の礼拝でも、いわゆるゴスペルコンサートでもない。KREVA、KEIJU、AKLO、SALU、G-k.i.d、NORIKIYOらヒップホップシーンを代表するゲストが次々と登場し、客席は大合唱に包まれた。
その中心にあったのは、成功や強さの誇示よりも、弱さを抱えた自分が変えられてきたという物語だった。
公演中、27歳になったばかりのKvi Babaは、かつて誕生日を迎えることさえつらかった時期を振り返った。18~20歳ごろの楽曲は、自分で聴いても当時の自分がかわいそうに思えるほど暗かったという。長く封印してきた「Life is Short」を7年ぶりに披露したのは、暗かった過去も含めて現在の自分につながっており、その歩みが誰かを勇気づけるかもしれないと考えたからだった。
Kvi Babaは1999年、大阪府茨木市生まれ。音楽活動を始めたころから孤独や自己嫌悪、生きづらさを率直に歌ってきた。
2023年、J‐WAVEのインタビューでは、自ら「クリスチャンとして音楽もやっている」と明言。信仰を持ちながらもつらく「どうしようもない」と感じていた時期に、米バンドLANYの「I Still Talk To Jesus」と出合い、影響を受けたと語っている。問題を抱え、時には酒に酔うことがあっても、それでもイエスと語り続ける――。そんな楽曲に自らを重ね、「僕自身もこんな音楽性を提示できて、素直なアーティストでいられたら」と話していた。
同年発表したメジャー1stアルバムのタイトルは『Jesus Loves You』。音楽ナタリーのインタビューでは、自分は弱く、めちゃくちゃでも「それでも神様に愛されている」と説明し、どんなに暗い状況にも希望があること、自分の歌が誰かの光になってほしいとの思いを明かしている。
「Jesus」はアリーナ公演を大きく見せるために突然持ち込まれたモチーフではない。自己否定や孤独を歌ってきたKvi Babaの音楽の中で、少なくとも数年前から、弱い自分をそのまま受け止める根拠として徐々に前面化してきたものだ。
横浜アリーナには、昨年の武道館公演にも足を運んだフリーランス牧師で英語・聖書教員の宮本英明さんの姿もあった。
宮本さんは武道館公演について「とうとうここまで来たか、という感慨があった」と振り返る。今回は終演後にKアリーナ横浜での追加公演も発表され、「まだまだ先に進み続けるという勢いを感じた」という。会場がさらに大きくなっても、「Kvi Babaと観客の一体感が変わらないどころか増しているのが驚きだった」と話す。
クリスチャンとして最も印象に残ったのは「City Love City Love City Love」で、会場全体が「I Love Me I Love You I Love God」と声を合わせた場面だった。「観客全員が大合唱した場面は圧巻だった」と宮本さん。ほとんどがノンクリスチャンと思われる1万を超える観客が、「God」という言葉をためらうことなく歌う光景がそこにあった。
公演タイトルそのものに「Jesus」を掲げることについても宮本さんは肯定的に受け止める。「皆に愛されるKvi Babaが尊敬するJesusってどんな神なんだろう、と自然に思うはず。新しいスタイルの強力な伝道方法だと思った」
今回の公演で象徴的だったのが、KEIJU、G-k.i.dと歌った「Friends, Family & God」だった。友人、家族、神への感謝を歌う同曲に、満員の客席から大きな声が重なった。Kvi Babaは終盤、ステージから客席へ降り、一人ひとりに会いに行くように場内を歩きながら歌った。
日本の若者が「宗教」や「キリスト教」という言葉から距離を置いていると語られる一方、1万2500人が「Shout Out to Jesus」と名付けられた公演に集まり、「God」を含む歌を共に歌う。その多くがクリスチャンなのかどうかは分からない。
Kvi Babaが歌うのは、信仰を持てば悩みがなくなるという物語ではない。死にたいと思った過去も、自分を嫌いになる弱さも抱えたまま、それでも愛されていると歌う。「Jesus Loves You」という言葉が、教会の外にいる若者たちに届いているとすれば、それは「正しさ」や「強さ」を説く言葉としてではなく、弱さを隠さなくていいというメッセージとしてなのかもしれない。
公演の最後には、11月3日にKアリーナ横浜で追加公演「Shout Out to Jesus -ENCORE-」を開催すると発表した。横浜アリーナから、さらに大きな会場へ。「Jesus」を掲げるKvi Babaの歩みは続く。















