印カトリック教会 トランスジェンダー当事者への継続的牧会開始 就労・医療も支援 2026年8月18日

 インド南部タミル・ナードゥ州のマドラス=マイラポール大司教区が、トランスジェンダーの人々への継続的な牧会活動を始めた。祈りや信仰生活への同伴にとどまらず、教育や就労、医療、安全な生活環境の確保などを支援する。米「レリジョン・ニュース・サービス」(RNS)が8月17日、現地で活動する司祭や当事者らへの取材をもとに詳報した。RNSによると、インドのカトリック教会では初の本格的、継続的な取り組みという。

 「パストラル・ケア・デスク」と呼ばれる窓口は今年2月、ジョージ・アントニサミ大司教によって開設された。中心となるのはレオ・ジョセフ司祭と、トランスジェンダー当事者で活動家のインバ・イグナティウス氏。司祭、修道女、当事者らが月1回集まり、祈りを共にするとともに、教育・就労支援、医療へのアクセス、生活上の安全確保などについて相談に応じている。将来的には教区の正式な委員会へ発展させ、他教区にも同様の取り組みを広げることを目指している。

 取り組みは突然始まったものではない。イグナティウス氏は自身も教会で疎外された経験を持つ。約20年前、クリスマスの深夜ミサに友人らと参加した際、司祭から悔い改めるまで聖体拝領を認めないと告げられたという。その後、家族や社会から孤立するトランスジェンダーの人々の住居や仕事を支援し、2015年から自宅に40~50人を招いて祈りや交流の場をつくった。やがて自宅を、トランスジェンダーやHIV陽性者らが利用できるシェルターへと拡張。2階には宗教を問わず祈ることのできる小さな礼拝スペースも設けた。

 同じ2015年、地域のカトリック教会に赴任したジョセフ司祭と出会った。当初は自身にもトランスジェンダーの人々への固定観念があったと振り返るジョセフ司祭は、交流を重ねる中で考えを変えていった。2016年にはトランスジェンダー女性を主日の聖書朗読に招き、子どもや青年向けの黙想会でもジェンダーの多様性について当事者から話を聞く機会を設けた。2022年の聖木曜日には、イエスが弟子たちの足を洗った故事にならい、7人のトランスジェンダー女性の足を洗った。

 この地域で続いてきた実践を教区として制度化した背景には、教皇フランシスコが繰り返した「周縁にいる人々」への牧会と、シノドス(世界代表司教会議)の影響がある。英カトリック誌『ザ・タブレット』によると、ジョセフ司祭は今回の活動について、シノドスが周縁化された人々を教会共同体に迎え、人間として尊厳ある生活を支えるよう促したことへの応答だと説明している。

 アントニサミ大司教もRNSに、フランシスコが活動を進める大きな契機になったと説明した。フランシスコは2023年、ポルトガル・リスボンで開かれた世界青年の日で、教会には「すべての人」が居場所を持つとの趣旨を繰り返し強調した。アントニサミ大司教は2024年のシノドス総会にも参加している。今後は司祭や修道会などの参加をさらに広げ、社会的偏見の解消と当事者の経済的自立を進めたいとしている。

 一方、カトリック教会がジェンダーをめぐる従来の教えを変更したわけではない。教皇庁教理省は2024年の宣言「ディグニタス・インフィニタ(無限の尊厳)」で、すべての人がいかなる状況でも失われることのない固有の尊厳を持つと強調する一方、「ジェンダー理論」や性別変更については批判的な見解を示した。2023年には、トランスジェンダーの人も一定の条件のもとで他の信徒と同様に洗礼を受けることができ、代父母を務めることも場合によって可能との回答を示している。

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