「キリスト教文化」掲げるAfD 教会とは対立 独州議会選で宗教政策に地域差 2026年8月12日

 9月に州議会選などを控えるドイツ東部3州で、極右・右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が掲げる宗教政策に大きな違いがあることが分かった。「キリスト教文化」を自国のアイデンティティーとして強調する一方、既存のカトリック、プロテスタント両教会には厳しい姿勢を示す地域もあり、「キリスト教」を政治的・文化的な境界線として用いる右派政治と、実際の教会との亀裂が浮かび上がっている。独カトリック系メディア「ドムラジオ」(DOMRADIO.DE)が8月6日付で報じた。

 9月6日に州議会選が行われるザクセン=アンハルト州では、AfDの選挙綱領が3地域の中で最も踏み込んだ教会批判を展開している。既存教会が「キリスト教的使命」から離れ、政治的に一方へ偏っていると批判し、国家による教会税徴収の廃止や、教会への国家給付制度の抜本的改革を要求。教会アジールを認めず、それによって生じた強制送還費用を教会側に負担させることも掲げる。

 その一方、綱領はこうした政策について、キリスト教信仰への拒絶を意味するものではなく、むしろ国家資金から独立してこそ教会は「肯定的な作用」を発揮できるとの論理を示す。また、イスラム教の学校教育を認めず、ミナレットや礼拝を告げるアザーンの規制を要求。「イスラムはドイツに属さない」とする一方、キリスト教を「欧州文化の本質的な一部」と位置付ける。

 これに対し、9月20日に州議会選が行われるメクレンブルク=フォアポンメルン州では、教会そのものへの批判は目立たない。教会を含む団体でのボランティア活動を評価し、村落の教会建築を文化財として保存することなどを掲げる一方、教会税や国家給付には触れていない。宗教社会学者のゲルト・ピッケル氏は、家族や郷土を前面に出し、教会との直接対立を避ける選挙戦略との見方を示している。

 同じ20日に選挙を迎えるベルリンでは、刑務所での宗教的ケアを各宗教団体の自己負担とすることや、学校での宗教的表現の規制が中心となる。三つの選挙綱領はいずれもイスラム教をドイツ文化の外部に位置付ける傾向を共有するものの、既存教会への距離や「キリスト教」の強調の仕方には明確な差がある。ベルリンでは「キリスト教・西洋文化の継承者」と自らを位置付ける一方、メクレンブルク=フォアポンメルン州の綱領には「キリスト教」という言葉自体が登場しないという。

 教会側はAfDとの距離を明確にしている。マクデブルク教区のゲルハルト・ファイゲ司教は8月6日、AfDの世界観とカトリック教会には「共通点はない」と述べ、人間の尊厳や性的少数者への姿勢などを理由に挙げた。ドイツ司教協議会も2024年、「民族主義的ナショナリズムとキリスト教は両立しない」とする声明を全会一致で採択。ドイツ福音主義教会(EKD)側からも、AfDの排外的な主張はキリスト教的人間観と相いれないとの批判が繰り返されてきた。

 ただし、「キリスト教」を掲げるAfDへの支持と、現実の教会所属とは必ずしも重ならない。今年6月の世論調査では、AfDに投票すると答えた人は全体で29%だったのに対し、カトリック信徒とプロテスタントの州教会所属者はいずれも24%。無宗教者では32%だった。とりわけ旧東ドイツ地域では無宗教化が進む一方、「キリスト教的西洋」「伝統的家族」といった言葉が政治的アイデンティティーとして利用されるという、一見逆説的な状況が生じている。

 こうした構図はドイツだけのものではない。米国では、国家アイデンティティーとキリスト教を強く結び付ける「キリスト教ナショナリズム」をめぐる議論が続く。米「ピュー・リサーチ・センター」が今年4月に行った調査では、キリスト教を米国の「公式宗教」とすべきだと答えた人は17%で、2024年の13%から増加。共和党支持層では27%だった。また、聖書と民意が対立した場合に聖書を法律に優先させるべきだと答えた人は全体の28%、共和党支持層では45%に上った。一方、キリスト教ナショナリズムに否定的な人は31%で、肯定的な10%を大きく上回っており、米社会全体の総意とは言えない。

 ハンガリーでも、今年4月の総選挙で敗北するまで16年間政権を率いたビクトル・オルバーン前首相が「非自由主義的なキリスト教民主主義」を掲げ、家族、移民、性的少数者などをめぐる政策を「キリスト教文化」の保護と結び付けてきた。2011年に制定された基本法には、国家機関が「ハンガリーのキリスト教文化」を守る責務まで盛り込まれた。政権交代後もこの条項は維持されており、「キリスト教文化」という政治的言語がオルバーン時代だけのものではないことも示している。

 ブラジルでも、ジャイル・ボルソナロ前大統領と福音派の一部との強い政治的連携が、妊娠中絶やジェンダー、家族観を争点として右派勢力を支える基盤となってきた。ただし、福音派全体が右派で一枚岩になっているわけではなく、政治と教会の過度な一体化に批判的な福音派も存在する。

 9月の三つの選挙は、欧州で広がる右派ポピュリズムと「キリスト教」の関係を考える上でも、一つの試金石となりそうだ。

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