「好き/嫌い」を超えて尊厳を 全キリ人権教育セミナー 分断の時代に教育の役割問う 2026年8月14日

 第36回全国キリスト教学校人権教育セミナー(全キリ、全国キリスト教学校人権教育研究協議会主催)が8月11、12の両日、カトリック麹町聖イグナチオ教会(東京都千代田区)で開かれた。今年のテーマは「『好き/嫌い』だけで決めていいの!?――排外と分断の時代に尊厳を」。学校を「いのちの尊厳・世界の平和・人権」の確立を目標に歩む場であり続けたいとの趣旨のもと、スタッフを含め約100人の参加者が、講演や聖書研究、五つの分科会を通して、排外主義や分断が広がる社会で人権教育が果たす役割を考えた。

 冒頭の基調報告で実行委員長の橋本佐々悦子氏は、1990年に大阪の矢田解放塾で始まったセミナーの歩みを振り返った。出発点にあったのは、部落差別にとどまらず、さまざまな差別からの解放を目指す人権教育だったという。橋本氏は、キリスト教に基づく学校や社会活動、教会で人がつながり、共感するために重要なのは「痛み」の共有だとし、「参加者はそれぞれの『痛み』を出発点に、他者の『痛み』へと繋がっていけるネットワークを目指したい」と、その原点を確認した。

 報告では、今年3月に沖縄県辺野古沖で起きた同志社国際高校の研修中の事故にも言及。生徒の安全確保を最優先にすべきことを確認する一方、事故後の文部科学省による学校への対応が、各校による平和教育を萎縮させかねないとの懸念を表明した。

 初日の講演「若い人たちに届けられるか 愛と尊厳と平和のメッセージ」では、中野晃一氏(上智大学国際教養学部教授)が、世界情勢と日本政治を踏まえながら、平和や人権を次世代にどう伝えるかを論じた。

 中野氏は、「戦争はだめ」「人権は守られるべきだ」といった価値規範を、現実論を理由に引っ込める必要はないと強調。「絶対的な価値規範というのは譲ることはできない」としながら、具体的な事実や論理を示して伝えることも必要だと提起した。若者が目に見える反応を示さなくても、語る側が自信を失うべきではないとし、平和教育について「怯まずに訴えていただく」と呼びかけた。

 続く聖書研究では、安田真由子氏(日本福音ルーテル都南教会信徒)が「規範を取り直す」をテーマに、フェミニスト・クィア批評の視点から聖書を読み直した。

 安田氏は、社会の周縁に置かれた人々の視点から聖書や神学を読み直すことで、これまで見えなくされてきた声を拾い直そうとする試みを紹介。安息日に手の萎えた人を癒やしたイエスや、「やもめの献金」を取り上げ、規則を守ること自体が目的化する時、誰がその規範によって守られ、誰が周縁へ押し出されるのかを問う読み方を提示した。

 特に「やもめの献金」について、自己犠牲の模範としてのみ読むのではなく、直前にある「やもめの家を食い物にする」宗教指導者への批判と併せ、貧しい者から生活費まで差し出させる神殿制度への批判として読む可能性を示唆。学校もまた校則や慣習、道徳を通して社会の「規範」を再生産する場になり得ると指摘し、「学校が良かれと思って教える道徳や規範こそが、構造的差別の根幹を形作ってしまう」可能性があるとして、その規範が「誰を中心に集めて、誰を周縁に追いやっているのか」を問い続ける必要性を訴えた。

 2日目には、ハンセン病問題、ヘイトと分断、インターセクショナリティ、ラップを通じた自己表現、部落差別などをテーマとする分科会に続き、作家の石井光太氏が「なぜ子どもたちは傷つけ合うのか」と題して講演した。

 国内外で困難を抱える子どもたちを取材してきた石井氏が着目したのは「言葉」。怒り一つをとっても、使える言葉が限られれば、複雑な感情まで「むかつく」「殺す」といった極端な言葉でしか表現できなくなると説明した。不登校の子どもに理由を尋ねても、「分からない」「教室の圧がすごい」としか言えず、その「圧」が何なのか言語化できないケースも紹介。

 石井氏は、幼いころから大人が子どもの感情を言葉に置き換える「代弁者」として手助けをすることの重要性を強調。遊びや行事などを通じた他者とのリアルな共同体験は、「自分はここにいていい」と感じられる基本的な自尊感情を育てるとし、学校や家庭が意識的にその機会をつくることを求めた。

 スマートフォンやゲームそのものを否定するのではなく、問題は「どう使うか」だとも強調した。異なる背景や関心を持つ人と実際に出会い、自分の考えを説明し、相手の言葉を聞く経験を増やすことが、複雑化する社会を生きる力につながるという。将来さらに情報や価値観が多様化する中で、「言葉でもって」情報を整理し、異なる人々と分かり合い、自分自身をコントロールする力が一層必要になると結んだ。

 同セミナーの運営に長く携わってきた比企敦子氏(全国キリスト教学校人権教育研究協議会副会長)は、今回は開催会場の影響もありカトリック関係者の参加が増えたこと、近年はかつての教え子など若い世代やクリスチャンではない教育関係者にも認知されるようになったことを評価。会長として牽引してきた故・関田寛雄氏(日本基督教団神奈川教区巡回教師)の遺志を継ぎ、「キリスト教学校の枠を超えて、次世代と共に人権教育の歩みをつないでいきたい」と語った。

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