【映画評】 『聖☆おにいさん』 天上界の視点から現代日本の魅力を再発見 2013年5月10日

 ついに、ここまで来た。世紀末を乗り越えたイエスとブッダが、東京・立川のアパートで同居し、下界でバカンスを楽しむという奇想天外な設定で、2006年の「モーニング・ツー」(講談社)連載開始以来、漫画界のみならず宗教界にも旋風を巻き起こしてきた『聖(セイント)☆おにいさん』。

 09年には「このマンガがすごい!」のオトコ編で1位、同年の手塚治虫文化賞短編賞も受賞。単行本は大英博物館で展示されるなど、海外からも注目を集め、累計発行部数は1千万部を突破した。同作のヒットは、その後の阿修羅展やパワースポットを含む「宗教ブーム」にも多大な影響を及ぼした。

 今回、数々のミラクルを起こしてきた2人が、紙面を飛び出し、いよいよ劇場スクリーンへ「降臨」。漫画ならではの軽快なテンポには劣るものの、連載開始当初の勢いと中村作品特有のタッチは忠実に再現。大画面に映し出される緻密な情景描写も見逃せない。

 四季折々の宗教行事を無邪気に楽しむ姿は、実にほほえましい。世が世なら(国が国なら)宗派間抗争の火種にもなりかねない難題だが、宗教関係者を含め、広く支持される土壌はやはり日本ならでは。いわば、天上界の視点で現代を素描した宗教版『テルマエ・ロマエ』に、下町情緒あふれるニッポンの原風景を愛しむ『三丁目の夕日』テイストを加味した物語である。

 他方、教会内には、信仰・崇敬の対象を「笑いのネタ」にすることへの抵抗があるのもまた事実。信仰とは別次元で一種のエンターテインメントとして許容できるかどうかは、個々人の信仰観にも関わる分水嶺といえるかもしれない。はたまた単なる笑いのツボの違いか?

 イエスの声を演じる俳優の森山未來は、今年の日本アカデミー賞にも複数の出演作品がノミネートされる若手注目株だが、自身も幼いころにはカトリック教会に通っていたという。ブッダ役にはミュージシャンとしても活躍中の俳優・星野源。ともに声優初挑戦ながら、既存の「聖人」像を覆すキャラクターに息を吹き込むという大役を見事にこなした。

 この流れでありがちな実写版だけは勘弁願いたいが、できれば今度はテレビアニメとして、お茶の間で「最聖」コンビのゆるい日常を満喫したい。

 

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【Ministry】 特集「建物から考える教会論」 17号(2013年春)

ⓒ中村 光・講談社/ SYM 製作委員会

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