【空想神学読本】 「仮面ライダーフォーゼ」に見る〝隅っこのキリスト〟 Ministry 2015年冬・第24号

 毎週日曜朝に放送中の男の子向け番組枠「スーパーヒーロータイム」は、教会へ向かう子どもたちの出足を奪う強敵だ。サブカルの文脈でしばしば問われてきた「ヒーロー」論に、キリスト教から向き合ってみたい。

 1960年代後期、ベトナム戦争や公害の時代背景を色濃く反映した特撮番組「ウルトラマン」。80年代初頭に社会現象となったアニメ「機動戦士ガンダム」。このようなヒーロー像の系譜は、同じく昭和特撮の一時代を築いた「仮面ライダー」のリメイクである、平成仮面ライダーシリーズ(2000年放映「仮面ライダークウガ」以降に制作されたシリーズ)にも受け継がれている。すなわち、絶対悪を裁く完全正義のヒーローとは異なる、弱さやあいまいさを抱えたヒーロー像である。

 脚本家・井上敏樹は語る。「ヒーローは存在しないほうがいいんだよ。存在すると怪人になってしまう」「キャラ的に無に近くて、人格もなければ外郭もない。……もうひとつは実は怪人だったというもの。怪人だから存在してもいい」(『ユリイカ』2012年9月臨時増刊号「平成仮面ライダーという系譜」)。仮面ライダーは人間と怪物との境界線上にいるそして人間社会の関係性の網の中で、最も周辺的で無に近い、外縁に立っている。

 そんなヒーローが、自身も深く傷つき倒れながら、果たしてどのように人を「救う」のか。平成仮面ライダーシリーズ13作目「仮面ライダーフォーゼ」に、とりわけ福音書的と思われるエピソードがある。主人公・如月弦太朗(仮面ライダーフォーゼ)を裏切り、闘いの途中で彼を背後から襲って殺す、彼の「友だち」・流星(仮面ライダーメテオ。流星を含めた学園の全員と「友だち」になることが、弦太朗の目標)。流星にも大義はあった。だが彼はその大義のために、自分を信じきった弦太朗を裏切り、殺す。流星の仲間だった者たちすべてが、今や彼の弦太朗殺しを告発する。そして流星自身、自分の犯した罪の重さに、次第に潰されてゆく。流星はいわば、テレビを見る子どもたちにとってのユダだ。

 やがて物語は進み、弦太朗は「復活」する。復活した弦太朗は流星に何と応えたか。「お前はおれのダチだ、流星。もう一点の曇りもねえ。みんなもわかってくれたよな? 本当のこいつを」。流星によって裏切り殺された弦太朗自身が、流星を赦す。これだけが流星を絶望から救い出し、仲間たちと和解させる唯一の方法だったのだ。

 裏切り、殺した、このおれを、再び友と認めてくれるというのか──弦太朗から赦されたことで、かえって流星は自分の犯した罪の、その取り返しのつかない重さを知る。そして、弦太朗の赦しの、そのあり得なさを……。流星は今や、おのれの罪の重さに焼かれつつも、その痛みを喜んで引き受けていく。罪の痛みよりも、弦太朗の赦しに応えて生きようという喜びが勝るからである。一度はイエスを見捨てて逃げ去った弟子たちが、復活したキリストによる赦しと出会う。そして彼らは二度とキリストを裏切るまいと、悔い改めていく──そんな姿が思い浮かぶ。

 ところで平成の仮面ライダーは、いわば隅っこのヒーローである。弦太朗は世界や人類の危機から地球を守るのではない。自分がいる学校の、自分が出会う「友だち」を守るだけである。全人類の絶対正義を遂行するのではなく、目の前の「友だち」の苦しみや悲しみと向き合うだけのヒーロー。世界の隅っこのヒーロー。

 この「隅っこのヒーロー」という点もまた、キリスト教の歩みとどこか通じ合うものがある。キリスト教は世界宗教となった。しかし啓蒙主義的世界観や自然科学の興隆に伴い、キリスト教は西欧社会でその公的な居場所を失っていく。その行き着く先は個人の敬虔な信仰領域、いわば「心の宗教」であった(J・ペリカン著、鈴木浩訳『キリスト教の伝統5』第三章)。「心の宗教」においては自己とキリストとの出会いが第一義的となる。そこでの教会のイメージもまた、全世界に広がる公同的教会というよりもむしろ、私と神とが出会う私的な場所である。

 隅っこのヒーローとしてのイエス・キリストが、ひとりの人間に出会う。安定した場所/中央からはじき出され、境界線上/周辺に立たされたと感じる、ひとりの人間に。強大な教会としてではなく、むしろ無に近いほどに小さく、周辺的な者として現れるキリスト。現代の具体的な課題に生きる、一人ひとりの人間の「友だち」になってくれるキリスト。テレビを見る子どもたちは、そして大人も、そんなキリストとの出会いを求めているのかもしれない。

(日本基督教団牧師 沼田和也)

【作品概要】 仮面ライダーフォーゼ

 天ノ川学園の高校生・如月弦太朗が、変身ベルトと宇宙に存在する未知のエネルギーを引き出すスイッチ・アストロスイッチの力で「仮面ライダーフォーゼ」となり、未知なる敵「ゾディアーツ」と戦う。

 2011 年9 月4 日~ 2012 年8 月26 日に、生誕40 周年記念作品としてテレビ朝日系列で放映された平成仮面ライダーシリーズ第13 作(全48 話)。シリーズ初の「学園モノ」要素と、有人宇宙飛行50 周年という記念すべき年に合わせ、宇宙をテーマにした「学生で宇宙飛行士の仮面ライダー」という設定。キャッチコピーは「青春スイッチオン」、「宇宙キター!」。

■原作 石ノ森章太郎
■プロデュース 本井健吾(テレビ朝日)、塚田英明(東映)、高橋一浩(東映)
■スーパーバイザー 小野寺 章(石森プロ)
■脚本 中島かずき、三条 陸、長谷川圭一
■音楽 鳴瀬シュウヘイ
■キャラクターデザイン 田嶋秀樹、PLEX
■クリーチャーデザイン 麻宮騎亜
■特撮監督 佛田 洋
■アクション監督 宮崎 剛
■監督 坂本浩一、石田秀範、柴﨑貴行、諸田 敏、田﨑竜太、山口恭平、渡辺勝也

 

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【Ministry】 特集「これからの「セイジ」の話をしよう」 24号(2015年冬)

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