【映画評】 伝統宗教の位置と役割描く台湾映画 『百日告別』公開で監督来日 2017年3月11日

 同じ交通事故で愛する人との死別を経験した男女の、深い喪失感から再生へと向かう百日間を描く台湾映画『百日告別』。監督のトム・リン(林書宇)は、若くして妻を失くした実体験から本作を着想した。日本公開へ併せ来日した監督に、本作の撮影をめぐり話を伺った

 『百日告別』では、各々の仕方で悲しみを癒やそうとする主人公らの日々が丹念に描写されてゆく。ピアニストの妻を失った主人公ユーウェイは、妻の教え子だった生徒の家々を訪ねるなかで、それまで知らなかった妻の素顔に触れる。もう一人の主人公で婚約者を失ったシンミンは、新婚旅行で訪れるはずだった沖縄の島々を、婚約者と立てた計画通りに一人で旅する。

 こうしたストーリーの結節点として「初七日」「四十九日」「百カ日」といった法要場面がしばしば挿入され、現代の若者らしく伝統宗教への関心の薄い主人公らが、時間がたつにつれ周囲の弔問客と声を合わせて経文を読み始める様子も描かれる。

 映画は主人公らの深い悲しみからの回復に、仏教儀式の進行が寄り添う様子を描くが、実はトム・リン監督自身はクリスチャンだという。そして沖縄・八重山を舞台とするシーンについては、どのような環境で神様の存在を感じることができるかを大事に考えたと話す。「私自身は、人がつくった都会よりも、大自然に囲まれあるときに神様の実在を最も感じる。自然もまた神様が創ったものであり、心に穏やかさと静けさをもたらしてくれる自然の力は偉大だと思う」。監督は微笑みながらそう話してくれた。

 日本での報道は皆無ながら本作『百日告別』は、エストニア首都タリンにて開催された映画祭《エキュメニカルアワード2015》において、キリスト教的価値を体現する作品としてキリスト教司祭たちの選ぶ特別賞を受賞した。異なる宗教を扱う作品ではあっても、現代人の生活における伝統宗教の位置と役割をめぐる表現の普遍性が評価されての受賞だった。

 一方で台湾映画は、侯孝賢やエドワード・ヤン、蔡明亮らに牽引されたかつての高い芸術性と抽象性から離れ、近年では著しく商業主義の荒波に洗われるさなかにある。そこではわかりやすい物語、感情移入の容易な登場人物ばかりが望まれがちだ。トム・リン監督もまたこの荒波との格闘のなかで映画製作を続けているが、本作における主人公らのストレートな心の表現は、こうした昨今の風潮を逆手にとった極めて高水準の達成を遂げている。トム・リン監督の一人のキリスト者としての、そして台湾映画継承者としての矜持をそこにみる。(ライター 藤本徹)

 

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【Ministry】 特集「教会を開く」 32号(2017年2月)

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